日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG24] 北極域の科学

2016年5月26日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*川崎 高雄(国立極地研究所)、森 正人(東京大学大気海洋研究所)、佐藤 永(海洋研究開発機構 地球表層物質循環研究分野)、津滝 俊(国立極地研究所国際北極環境研究センター)、羽角 博康(東京大学大気海洋研究所)

15:30 〜 16:45

[ACG24-P07] 完新世中期と将来の北極温暖化メカニズムの比較

*鈴木 まりな1吉森 正和2,3 (1.北海道大学 大学院環境科学院、2.北海道大学 大学院地球環境科学研究院、3.北海道大学 北極域研究センター)

キーワード:気候モデル、古気候、将来予測

観測事実から、近年の地球温暖化は北極域で顕著である。また、気候モデルのシミュレーション結果から、北極域の温暖化傾向は将来さらに強まると予測されており、生態系や地球規模の気候への影響が懸念されている。しかし、予測された温暖化の程度は気候モデルにより異なるため、不確実性がある。
Shmidt et al.(2013)では、現在より北極域が温暖であった過去の時代を利用し、将来予測の不確実性低減の可能性を示唆した。しかし、多数の大気海洋結合モデルにおける古気候シミュレーションの結果と将来気候のシミュレーション結果のばらつきに対して統計的相関を示しているのみで、両者の北極温暖化メカニズムに共通性があるかについては言及されていない。したがって、将来予測の不確実性低減に利用できる根拠は十分ではない。
そこで本研究では、過去と将来の北極温暖化メカニズムの共通性、相違性を調べ、過去の気候を用いた将来予測の不確実性低減の可能性について考察することを目的とする。方法としては、多数の大気海洋結合モデルにおける大気CO2濃度を4倍に増した実験と完新世中期実験の結果を、産業革命前の気候シミュレーション結果を基準として比較する。なお、完新世中期はおよそ6000年前の時代で、地球の軌道要素の違いにより現在と比べて北極域が温暖であったことがわかっている。
まず、各実験における北極温暖化について、地表面エネルギー収支に基づいてその支配的プロセスを調べ、その際、海氷や雲、水蒸気、海面水温に着目した。その結果、両実験ともに、主に夏に北極域に入力された過剰なエネルギーは直接大気を暖めるのにほとんど使われず、海氷を融かすのに使われたり、海洋に吸収され蓄えられており、数カ月後に露出した暖かい海水から熱が放出されることで北極温暖化が引き起こされていることがわかった。またそれに伴う海氷、雲、水蒸気の変化も共通していた。つまり、完新世中期と将来は異なる原因により北極温暖化が引き起こされているが、そのメカニズムには共通性が多く見られる。
次に、4倍CO2実験と完新世中期実験における地表面温度のモデル間のばらつきに対する各プロセスの寄与を、それぞれの実験について明らかにした。4倍CO2実験では年平均温度のばらつきには地表面アルベドフィードバック、10〜12月平均温度のばらつきには海洋からの放熱量が最も寄与していた。完新世中期実験ではどちらの期間の温度のばらつきに対しても晴天時の下向き長波放射の寄与が最大であったが、年平均温度のばらつきに対しては地表面アルベドフィードバック、10〜12月平均温度のばらつきに対しては海洋からの放熱量の寄与も比較的大きく、統計的にも有意であった。ステファンボルツマンの法則により、地表面温度と地上気温、つまり下向き長波放射は強く結びついているため、他のプロセスを正確に表現できれば、同時に晴天時の下向き長波放射の不確実性の制約も期待される。したがって、完新世中期実験の北極温暖化が精度よく再現できていれば、地表面アルベドフィードバックや海洋のエネルギー放出プロセスの表現に対する信頼性が高まり、同時に将来予測におけるそれらのプロセスの表現に対する信頼性も高まると考えられる。
以上から得られた北極温暖化メカニズムの理解を基に、完新世中期の北極温暖化に関する古環境情報は、将来の北極温暖化予測の不確実性にとって有用となることが考察される。