日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW16] 流域生態系の水及び物質の輸送と循環-源流域から沿岸域まで-

2016年5月26日(木) 09:00 〜 10:30 302 (3F)

コンビーナ:*吉川 省子(農業環境技術研究所)、小林 政広(国立研究開発法人森林総合研究所)、奥田 昇(総合地球環境学研究所)、小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)、知北 和久(北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、中屋 眞司(信州大学工学部水環境・土木工学科)、齋藤 光代(岡山大学大学院環境生命科学研究科)、座長:小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)、齋藤 光代(岡山大学大学院環境生命科学研究科)

10:00 〜 10:15

[AHW16-05] 脱窒過程における亜硝酸還元酵素遺伝子nirSの変動特性

*安元 純1高田 遼吾1廣瀬 美奈2細野 高啓3松永 緑3 (1.琉球大学 農学部 地域農業工学科、2.一般社団法人 トロピカルテクノプラス、3.熊本大学大学院先導機構)

キーワード:脱窒、亜硝酸還元酵素遺伝子(nirS)、リアルタイムPCR

近年,分子生物学的手法を用いた遺伝子解析技術が,環境中に存在する微生物相解析に応用されている。これまで帯水層における脱窒の指標とされていた,地下水中の無機態窒素,全有機炭素(TOC),無機炭素(IC)及び硝酸中の窒素及び酸素安定同位体比(δ15NNO3- ・δ18ONO3-)等に加え,遺伝子解析等により脱窒に関わる微生物量を直接確かめることが出来れば,脱窒による窒素除去量を推定する有益な情報となる。
本研究では,リアルタイムPCRを用いた脱窒関連遺伝子である亜硝酸還元酵素遺伝子(nirS)の定量分析を,脱窒過程の初期から終了時にかけて実施し,脱窒過程におけるnirSのDNAコピー数の変動特性を把握することを目的とした。
研究方法は,土壌及び琉球石灰岩を充填したカラムに,沖縄本島南部地域で採取した湧水を通水し,排水中のnirS遺伝子のDNAコピー数及び水質項目を分析した。実験に使用したカラムは,高さ70cm,内径7cmのアクリル製で,下部に2.6mmふるいを通過した琉球石灰岩を約31cm,間隙率0.54で充填し,上部に沖縄本島南部の圃場で採取した土壌を,約33cm,間隙率0.53で充填した。分析項目は,nirSのDNAコピー数,無機態窒素を含む主要陽・陰イオン,TOC,IC,δ15NNO3- ,δ18ONO3-を選出した。また,カラム内の項目として,水温,流量に加え,酸化還元電位(ORP)を7cm毎に計9点で測定した。
カラム実験の結果,琉球石灰岩を充填したカラム中において,実験後も酸化的環境が維持されていた一方で,土壌を充填したカラム中ではORPが-222mVまで減少し,還元的環境の形成が確認された。実験開始後,硝酸性窒素(NO3--N)濃度は徐々に減少し,221時間経過後から検出限界以下となった。脱窒の電子供与体となるTOCは,カラム通過前後で3~5倍程度増加しており,流速の減少に伴い増加する傾向がみられた。一方,脱窒の副産物であるICは,NO3-N濃度の減少やTOCの増加に伴い増加する傾向がみられた。以上より,カラムの土壌充填部分で脱窒が生じたと推測される。
NO3-N濃度の減少と共にnirSのDNAコピー数には上昇がみられ,NO3-N濃度が検出されなくなったおよそ120時間後にnirSのDNAコピー数は最大値2.89×106(copies/1mL of sample)となり,その後も高い値を示した。また,nirSのDNAコピー数は気温の変化により水温が約3℃減少した際には検出限界付近まで低下した。δ15NNO3-・δ18ONO3-の値はNO3Nの減少と共に上昇し,nirSのDNAコピー数が検出限界になった水温低下時にも高い値を維持しており,NO3Nが完全に無くなると測定不能となった。以上より,脱窒過程におけるnirSの変動特性の把握ができた。また, nirSとδ15NNO3-・δ18ONO3-との脱窒の指標としての違いが明らかとなった。