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[AHW16-09] 流域の栄養循環を駆動する河床微生物群集の生態系機能評価
キーワード:栄養循環、栄養不均衡、栄養螺旋モデル、生態系機能、リン負荷、礫付着藻類
1. はじめに
リンは生物に利用可能な形態での存在量が希少であるため、流域生態系の物質循環を支配する律速因子となりうる。この生態化学量論的特性により、集水域の人間活動に伴って排出されるリンは、富栄養化や生物多様性低下など深刻な環境問題をしばしば引き起こす。本研究は、河川生態系において「栄養バランスの不均衡」をもたらす流域圏の人間活動を特定するとともに、河床微生物群集に及ぼす影響を評価することを目的とした。さらに、河川生態系のリン循環パターンを流域スケールで可視化する栄養螺旋モデルを用いて、礫付着藻類群集により駆動されるリン循環機能の評価を試みた。
2.材料と方法
琵琶湖水系最大流域面積を誇る野洲川集水域を調査対象として土地利用形態の異なる1次から5次河川に59観測定点を設置し、全リン・全窒素濃度、流量、水深、川幅、流速、水温、日平均光合成有効放射を計測した。空間参照型回帰モデルSPARROW(Smith et al. 1997)を改良した栄養螺旋モデルにこれらの観測データおよび標高、河川次数、各種土地利用データを組み込むことによって、流域生態系全体のリン原子のスパイラルメトリクス(U:取込み速度、vf:鉛直移動速度、Sw:平均流下距離)を推定した。
さらに、上記観測定点の内、30地点において、河床礫付着藻類を定量採集し、クロロフィルa、b、cの濃度を測定した。クロロフィルa、b、cは、それぞれ藻類群集全体、緑藻類、珪藻類のバイオマスの指標として用いた。藻類群集が河川生態系のリン循環機能に及ぼす影響を評価するために、リンのスパイラルメトリクスを目的変数、各種藻類バイオマスおよびそれらに基づいた多様度指数を説明変数とした回帰分析を行った。
3.結果
野洲川の河川水全リン濃度は、市街地や農地の土地利用割合が高い集水域で高い値を示した。栄養螺旋モデルに基づいて、市街地と農地からの面源リン負荷量(mol/km2*day)は、それぞれ1.34と0.26と推定された。リン負荷による栄養バランス(全窒素/全リン濃度)の不均衡は、藻類群集組成に影響を及ぼし、とりわけ、緑藻バイオマスを規定する有意な環境要因とみなされた。
リンの取り込み速度Uは、森林河川で低く、市街地・農地河川で高かった。また、栄養塩除去効率の指標となるvfも市街地・農地河川で高い値を示した。一方、リンの栄養螺旋長(リン1分子が代謝回転するのに要する平均流下距離)と定義されるSwは、下流河川ほど長くなり、河川本流の下流域に負荷されたリンの多くは生物に取り込まれることなく琵琶湖に流入することが明らかとなった。他方、流域末端の小河川では、栄養螺旋長が相対的に短く、リン循環機能が高いと結論された。リンの取込み速度は、緑藻バイオマスと高い相関を示し、河床微生物によってリン循環が促進されていることが示唆された。
4.考察
野洲川流域では、市街地や農地から排出されるリンが河川生態系の栄養バランスの不均衡をもたらす駆動因となりうると結論づけられた。緑藻類は、リンへの応答性が高く、流域の土地利用改変による栄養バランスの不均衡が藻類群集組成やバイオマスの空間変異をもたらすと推察された。本研究により、集水域の人間活動が河床微生物群集の改変を介して、河川生態系の栄養循環機能に影響を及ぼすメカニズムを因果論的に解明することができた。
5.参考文献
Smith RA, Schwarz GE & RB Alexander (1997) Regional interpretation of water-quality monitoring data. Water Resources Research.33:2781–2798
リンは生物に利用可能な形態での存在量が希少であるため、流域生態系の物質循環を支配する律速因子となりうる。この生態化学量論的特性により、集水域の人間活動に伴って排出されるリンは、富栄養化や生物多様性低下など深刻な環境問題をしばしば引き起こす。本研究は、河川生態系において「栄養バランスの不均衡」をもたらす流域圏の人間活動を特定するとともに、河床微生物群集に及ぼす影響を評価することを目的とした。さらに、河川生態系のリン循環パターンを流域スケールで可視化する栄養螺旋モデルを用いて、礫付着藻類群集により駆動されるリン循環機能の評価を試みた。
2.材料と方法
琵琶湖水系最大流域面積を誇る野洲川集水域を調査対象として土地利用形態の異なる1次から5次河川に59観測定点を設置し、全リン・全窒素濃度、流量、水深、川幅、流速、水温、日平均光合成有効放射を計測した。空間参照型回帰モデルSPARROW(Smith et al. 1997)を改良した栄養螺旋モデルにこれらの観測データおよび標高、河川次数、各種土地利用データを組み込むことによって、流域生態系全体のリン原子のスパイラルメトリクス(U:取込み速度、vf:鉛直移動速度、Sw:平均流下距離)を推定した。
さらに、上記観測定点の内、30地点において、河床礫付着藻類を定量採集し、クロロフィルa、b、cの濃度を測定した。クロロフィルa、b、cは、それぞれ藻類群集全体、緑藻類、珪藻類のバイオマスの指標として用いた。藻類群集が河川生態系のリン循環機能に及ぼす影響を評価するために、リンのスパイラルメトリクスを目的変数、各種藻類バイオマスおよびそれらに基づいた多様度指数を説明変数とした回帰分析を行った。
3.結果
野洲川の河川水全リン濃度は、市街地や農地の土地利用割合が高い集水域で高い値を示した。栄養螺旋モデルに基づいて、市街地と農地からの面源リン負荷量(mol/km2*day)は、それぞれ1.34と0.26と推定された。リン負荷による栄養バランス(全窒素/全リン濃度)の不均衡は、藻類群集組成に影響を及ぼし、とりわけ、緑藻バイオマスを規定する有意な環境要因とみなされた。
リンの取り込み速度Uは、森林河川で低く、市街地・農地河川で高かった。また、栄養塩除去効率の指標となるvfも市街地・農地河川で高い値を示した。一方、リンの栄養螺旋長(リン1分子が代謝回転するのに要する平均流下距離)と定義されるSwは、下流河川ほど長くなり、河川本流の下流域に負荷されたリンの多くは生物に取り込まれることなく琵琶湖に流入することが明らかとなった。他方、流域末端の小河川では、栄養螺旋長が相対的に短く、リン循環機能が高いと結論された。リンの取込み速度は、緑藻バイオマスと高い相関を示し、河床微生物によってリン循環が促進されていることが示唆された。
4.考察
野洲川流域では、市街地や農地から排出されるリンが河川生態系の栄養バランスの不均衡をもたらす駆動因となりうると結論づけられた。緑藻類は、リンへの応答性が高く、流域の土地利用改変による栄養バランスの不均衡が藻類群集組成やバイオマスの空間変異をもたらすと推察された。本研究により、集水域の人間活動が河床微生物群集の改変を介して、河川生態系の栄養循環機能に影響を及ぼすメカニズムを因果論的に解明することができた。
5.参考文献
Smith RA, Schwarz GE & RB Alexander (1997) Regional interpretation of water-quality monitoring data. Water Resources Research.33:2781–2798