15:30 〜 16:45
[AHW16-P14] ベトナム北部を流れる紅河を通じたヒ素の挙動
★招待講演
キーワード:紅河、ヒ素、鉛
試料は雨季(2013年7月26-8月4日)と乾季(2014年4月10日-21日)にベトナム領内の紅河本流及び支流から採取した。試料数は河川水試料(試料数は雨季:29、乾季:45)、堆積物試料(乾季:18)である。
紅河本流の河川水中総ヒ素濃度は雨季:1.4-9.1 μg/L、乾季:2.2-92.9 μg/Lであった。中国国境付近に位置する紅河本流の最上流地点はヒ素濃度は、雨季は9.1 μg/L、乾季は33.9 μg/Lであった。乾季の値はWHOの定める水質基準値(10.0 μg/L)の3倍以上もの濃度である。本流では雨季、乾季ともに河口に向かうにつれてヒ素濃度は減少する傾向にあり、下流域の紅河デルタ上では基準値を超える地点はなかった。紅河に流れ込む支流の総ヒ素濃度はどちらの時期も本流の濃度よりも低い範囲(雨季:0.2-1.6 μg/L、乾季:0.3-4.5 μg/L)にあり、本流は支流の流入により希釈されていた。河川水中では、ヒ素は溶存態または懸濁態として存在するが、本流では溶存態として存在するものが多い。その割合は、最上流地点で約50 %と最低で、下流に向けて増加した。乾季と比べ、雨季はヒ素濃度が低く、豊富な基底流出水からなる支流によって希釈されていることが示唆された。
河床堆積物5試料のヒ素濃度は21.1と55.6 mg/kgを示した2試料を除いて、30.0~33.6 mg/kgであった。本流における河川水中総ヒ素濃度が下流に向けて濃度が低下していく傾向を持つこととは異なり、ラオカイ周辺(30.0 mg/kg)と河口周辺(31.6 mg/kg)で大きな差は見られない。支流の堆積物のヒ素濃度は紅河本流で採取したものと比べて低く、最大でも12.8 mg/kgであった。
ヒ素は難溶態と易還元態(酸化的な環境下で溶出しやすい形態)で約80%を占めた。難溶態は下流に向け徐々に減少したが、一方で易還元態は徐々に増加した。易還元態にはヒ素含有有機物もあるかもしれないが不明である。
堆積物のヒ素濃度と鉛濃度には良い正の相関(R2=0.92)が見られた。2元素が同じ起源を持つと推定されることから、鉛同位体比をトレーサーとして用いることで、ヒ素の起源物質推定も可能である。堆積物(n=6)の鉛同位体比は 206Pb/204Pb=18.572~18.766、207Pb/204Pb=15.727~15.739であった。懸濁物の同位体比は乾季(n=1): 206Pb/204Pb=17.611、207Pb/204Pb=15.586 、雨季(n=14): 206Pb/204Pb=18.516~18.667、207Pb/204Pb=15.701~15.737であった。206Pb/204Pbと207Pb/204Pbの関係は、雨季の堆積物と乾季の懸濁物が同じ領域あることを示しており、懸濁物と堆積物の鉛の起源は概ね同じであると推定された。しかし乾季の堆積物が正の傾きを示すのに対して雨季の懸濁物は負の傾きを示した。雨季には支流からの流入量が増加することから本流の懸濁物とは異なる同位体比を持つ鉛を含んだ砕屑物が支流から供給されていると考えられる。また、紅河の源流が位置する中国雲南省で採取された鉱石(方鉛鉱、閃亜鉛鉱、黄鉄鉱)の鉛同位体比と堆積物の同位体比を比較した。乾季の堆積物の鉛同位体比は鉱石の同位体比分布の範囲の延長線上にあるが、同じではない。したがって、雲南省の鉱石は紅河のヒ素の主な起源ではない。
ベトナム領内に涵養域を持つ支流はヒ素濃度が低い。支流の流入によって本流のヒ素濃度が希釈されていた。また、支流の河床堆積物のヒ素濃度も低い。このため、紅河流域のヒ素の汚染源はベトナム領内にない、もしくは存在しても小規模で環境に与える影響は小さい。また、河川水にはμg/Lオーダーでヒ素が含まれているのに対し、堆積物にはmg/kgオーダーで含まれている。よって、紅河のヒ素のほとんどは砕屑物中に存在しており、それらは上流域に位置する中国から運搬されてきた。
紅河本流の河川水中総ヒ素濃度は雨季:1.4-9.1 μg/L、乾季:2.2-92.9 μg/Lであった。中国国境付近に位置する紅河本流の最上流地点はヒ素濃度は、雨季は9.1 μg/L、乾季は33.9 μg/Lであった。乾季の値はWHOの定める水質基準値(10.0 μg/L)の3倍以上もの濃度である。本流では雨季、乾季ともに河口に向かうにつれてヒ素濃度は減少する傾向にあり、下流域の紅河デルタ上では基準値を超える地点はなかった。紅河に流れ込む支流の総ヒ素濃度はどちらの時期も本流の濃度よりも低い範囲(雨季:0.2-1.6 μg/L、乾季:0.3-4.5 μg/L)にあり、本流は支流の流入により希釈されていた。河川水中では、ヒ素は溶存態または懸濁態として存在するが、本流では溶存態として存在するものが多い。その割合は、最上流地点で約50 %と最低で、下流に向けて増加した。乾季と比べ、雨季はヒ素濃度が低く、豊富な基底流出水からなる支流によって希釈されていることが示唆された。
河床堆積物5試料のヒ素濃度は21.1と55.6 mg/kgを示した2試料を除いて、30.0~33.6 mg/kgであった。本流における河川水中総ヒ素濃度が下流に向けて濃度が低下していく傾向を持つこととは異なり、ラオカイ周辺(30.0 mg/kg)と河口周辺(31.6 mg/kg)で大きな差は見られない。支流の堆積物のヒ素濃度は紅河本流で採取したものと比べて低く、最大でも12.8 mg/kgであった。
ヒ素は難溶態と易還元態(酸化的な環境下で溶出しやすい形態)で約80%を占めた。難溶態は下流に向け徐々に減少したが、一方で易還元態は徐々に増加した。易還元態にはヒ素含有有機物もあるかもしれないが不明である。
堆積物のヒ素濃度と鉛濃度には良い正の相関(R2=0.92)が見られた。2元素が同じ起源を持つと推定されることから、鉛同位体比をトレーサーとして用いることで、ヒ素の起源物質推定も可能である。堆積物(n=6)の鉛同位体比は 206Pb/204Pb=18.572~18.766、207Pb/204Pb=15.727~15.739であった。懸濁物の同位体比は乾季(n=1): 206Pb/204Pb=17.611、207Pb/204Pb=15.586 、雨季(n=14): 206Pb/204Pb=18.516~18.667、207Pb/204Pb=15.701~15.737であった。206Pb/204Pbと207Pb/204Pbの関係は、雨季の堆積物と乾季の懸濁物が同じ領域あることを示しており、懸濁物と堆積物の鉛の起源は概ね同じであると推定された。しかし乾季の堆積物が正の傾きを示すのに対して雨季の懸濁物は負の傾きを示した。雨季には支流からの流入量が増加することから本流の懸濁物とは異なる同位体比を持つ鉛を含んだ砕屑物が支流から供給されていると考えられる。また、紅河の源流が位置する中国雲南省で採取された鉱石(方鉛鉱、閃亜鉛鉱、黄鉄鉱)の鉛同位体比と堆積物の同位体比を比較した。乾季の堆積物の鉛同位体比は鉱石の同位体比分布の範囲の延長線上にあるが、同じではない。したがって、雲南省の鉱石は紅河のヒ素の主な起源ではない。
ベトナム領内に涵養域を持つ支流はヒ素濃度が低い。支流の流入によって本流のヒ素濃度が希釈されていた。また、支流の河床堆積物のヒ素濃度も低い。このため、紅河流域のヒ素の汚染源はベトナム領内にない、もしくは存在しても小規模で環境に与える影響は小さい。また、河川水にはμg/Lオーダーでヒ素が含まれているのに対し、堆積物にはmg/kgオーダーで含まれている。よって、紅河のヒ素のほとんどは砕屑物中に存在しており、それらは上流域に位置する中国から運搬されてきた。