15:45 〜 16:00
[AHW17-02] バングラデシュ・ラクシュミプールの地下水ヒ素汚染に関わる帯水層中堆積物中のヒ素と関連元素の挙動
キーワード:地下水、ヒ素、バングラデシュ
【はじめに】
地下水ヒ素汚染は世界的に問題となって30年以上が経過するが、今も解決していない。なかでもバングラデシュの国土面積の大部分を占めるガンジスデルタと、このデルタ地帯に土砂を供給するガンジス川、ブラマプトラ川、メグナ川流域での汚染は深刻である。
地下水ヒ素汚染は地質体に起源物質があり、地下水環境に伴って溶出する。先行研究からは地下水環境が還元的な場合にヒ素が検出されることが多い。一方でヒ素溶出の最初期には酸化反応が重要だという指摘もある。
本研究ではガンジスデルタの、還元環境で地下水ヒ素汚染が出現するラクシュミプール近郊の堆積物の分析によりヒ素溶出プロセスを検討した。
【分析方法】
分析に用いた試料は深度130ftまでのボーリングコアである。BCR法によって深度別(5ftごと)に抽出した溶液試料を、ICP-MS(SPQ 9700 日立ハイテク社製)を用いて元素質量分析を行った。この方法は1.酸可溶態(主として炭酸塩と弱く吸着したもの)、2.易還元性(酸化物態、主として酸水酸化鉄・マンガン酸化物)、3.易酸化性(還元物態、主として有機物)、4.難溶態(主としてケイ酸塩と硫化鉱物)に固定された元素を分析する簡便な方法である。ヒ素を固定する物質の特定には向かないが、ヒ素の溶出過程の推定には有用である。分析した元素はSi、Fe、Mg、Ca、Asである。XRDを用いた鉱物同定、XRFを用いた全堆積物の元素分析、ICP-MSを用いた総ヒ素量の定量も行った。
【結果と考察】
Fe、Mg、Caは難溶態が最も高い割合で含まれていた。酸化物態のMgとFe、FeとSi、還元物態のMgとFeに正の相関が見られた。また難溶態のMgとFe、FeとSiにも正の相関が見られた。これらのことは、Mg、Fe、Siが同一の起源物質に由来していることを示している。Fe、Mgに関して、深度が深くなるにつれて酸化物態の割合が高くなる傾向がみられた。これらのことはMgとFeを含む鉱物が、酸化反応により分解されて酸化物として沈殿していることを示唆している。
Asは難溶態に最も多く含まれている。次いで還元物態、酸化物態、酸可溶体であった。各深度の還元物態ヒ素と総ヒ素の濃度に正の相関が、酸化物態と還元物態の濃度に負の相関が見られた。難溶態と酸化物態のAsとFeの濃度には正の相関が見られる。したがってFeを含む鉱物の分解に伴って溶出したヒ素が酸化物態のFe鉱物に固定または強く吸着されたと推定される。また3元素は60フィート付近だけ酸化物態の割合が極端に減少する傾向がある。
XRD解析の結果、ほぼ全ての深度でFeとMgを含む塩基性鉱物として黒雲母、緑泥石、角閃石が含まれていた。しかし深度が増すにつれて緑泥石と角閃石の比が1に近づき、深度120ft以深では強度の大きさが緑泥石<角閃石であった。もしも3種の鉱物のもともとの比が同じであったと仮定できるのであれば、緑泥石は深度の増加、または年代の増加に伴って分解していると考えられる。
本調査地域の地下水環境は還元的であると考えられるが、帯水層堆積物には酸水酸化鉄が安定に存在できる程度の弱い還元状態である。また、深度が増すにつれて酸水酸化鉄が増加することから、地下水浸透の過程で還元化反応が進行していると推定される。Asの溶出はこの反応に伴って起こっている。酸化物態のAsとFeの濃度に良い相関があることは、地下水中のAsは酸水酸化鉄からの脱着で起こっていることが説明できる。ヒ素を含む塩基性鉱物の酸化分解が地下水環境を還元していると考えられる。また、この塩基性鉱物は緑泥石である可能性が高い。本研究では生物化学反応についての検討を行っていないため、この反応に生物が関与しているかどうかは不明である。
地下水ヒ素汚染は世界的に問題となって30年以上が経過するが、今も解決していない。なかでもバングラデシュの国土面積の大部分を占めるガンジスデルタと、このデルタ地帯に土砂を供給するガンジス川、ブラマプトラ川、メグナ川流域での汚染は深刻である。
地下水ヒ素汚染は地質体に起源物質があり、地下水環境に伴って溶出する。先行研究からは地下水環境が還元的な場合にヒ素が検出されることが多い。一方でヒ素溶出の最初期には酸化反応が重要だという指摘もある。
本研究ではガンジスデルタの、還元環境で地下水ヒ素汚染が出現するラクシュミプール近郊の堆積物の分析によりヒ素溶出プロセスを検討した。
【分析方法】
分析に用いた試料は深度130ftまでのボーリングコアである。BCR法によって深度別(5ftごと)に抽出した溶液試料を、ICP-MS(SPQ 9700 日立ハイテク社製)を用いて元素質量分析を行った。この方法は1.酸可溶態(主として炭酸塩と弱く吸着したもの)、2.易還元性(酸化物態、主として酸水酸化鉄・マンガン酸化物)、3.易酸化性(還元物態、主として有機物)、4.難溶態(主としてケイ酸塩と硫化鉱物)に固定された元素を分析する簡便な方法である。ヒ素を固定する物質の特定には向かないが、ヒ素の溶出過程の推定には有用である。分析した元素はSi、Fe、Mg、Ca、Asである。XRDを用いた鉱物同定、XRFを用いた全堆積物の元素分析、ICP-MSを用いた総ヒ素量の定量も行った。
【結果と考察】
Fe、Mg、Caは難溶態が最も高い割合で含まれていた。酸化物態のMgとFe、FeとSi、還元物態のMgとFeに正の相関が見られた。また難溶態のMgとFe、FeとSiにも正の相関が見られた。これらのことは、Mg、Fe、Siが同一の起源物質に由来していることを示している。Fe、Mgに関して、深度が深くなるにつれて酸化物態の割合が高くなる傾向がみられた。これらのことはMgとFeを含む鉱物が、酸化反応により分解されて酸化物として沈殿していることを示唆している。
Asは難溶態に最も多く含まれている。次いで還元物態、酸化物態、酸可溶体であった。各深度の還元物態ヒ素と総ヒ素の濃度に正の相関が、酸化物態と還元物態の濃度に負の相関が見られた。難溶態と酸化物態のAsとFeの濃度には正の相関が見られる。したがってFeを含む鉱物の分解に伴って溶出したヒ素が酸化物態のFe鉱物に固定または強く吸着されたと推定される。また3元素は60フィート付近だけ酸化物態の割合が極端に減少する傾向がある。
XRD解析の結果、ほぼ全ての深度でFeとMgを含む塩基性鉱物として黒雲母、緑泥石、角閃石が含まれていた。しかし深度が増すにつれて緑泥石と角閃石の比が1に近づき、深度120ft以深では強度の大きさが緑泥石<角閃石であった。もしも3種の鉱物のもともとの比が同じであったと仮定できるのであれば、緑泥石は深度の増加、または年代の増加に伴って分解していると考えられる。
本調査地域の地下水環境は還元的であると考えられるが、帯水層堆積物には酸水酸化鉄が安定に存在できる程度の弱い還元状態である。また、深度が増すにつれて酸水酸化鉄が増加することから、地下水浸透の過程で還元化反応が進行していると推定される。Asの溶出はこの反応に伴って起こっている。酸化物態のAsとFeの濃度に良い相関があることは、地下水中のAsは酸水酸化鉄からの脱着で起こっていることが説明できる。ヒ素を含む塩基性鉱物の酸化分解が地下水環境を還元していると考えられる。また、この塩基性鉱物は緑泥石である可能性が高い。本研究では生物化学反応についての検討を行っていないため、この反応に生物が関与しているかどうかは不明である。