日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW17] 水循環・水環境

2016年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 101B (1F)

コンビーナ:*樋口 篤志(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、長尾 誠也(金沢大学環日本海域環境研究センター)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、内田 洋平((独)産業技術総合研究所地質調査総合センター)、座長:樋口 篤志(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)

16:30 〜 16:45

[AHW17-05] 福島県東部とその周辺の地下水の起源と流動系

*村崎 友亮1益田 晴恵4井上 凌4坂本 裕介1丸井 敦3小野 昌彦3中屋 眞司2近岡 史絵4新谷 毅4平井 望生4山野 翔馬1 (1.大阪市大学理学部地球学科、2.信州大学工学部水環境・土木工学科、3.産業総合研究所、4.大阪市立大学理大学院理学研究科生物地球系専攻)

2011年3月11日に発生した東日本大震災時には,水圏にも大きな影響を与えた.津波による塩水化や福島原子力発電所の事故によって大気中に放出された放射性物質である.事故後,飛散した.放射性物質は降水などによって地表に降った.原子力発電所付近では震災後の調査で事故起源であると考えられるトリチウムが地下水中で検出されたという報告がある(藪崎,2015).
本研究では震災後の地下水圏の状況を把握するために放射性物質の流れた地域である宮城県南部・福島県東半部・栃木県北部の河川水と地下水を採取し,一般水質・微量元素(Si・Fe・Mn・As・Zn)・水素酸素安定同位体比・年代トレーサー(SF6・CFCs)・放射性セシウムを分析した.その結果に基づいて調査地域内の水の地下水流動系を考察した.
調査地域の河川水,地下水の溶存成分は希薄で,比較的良好な水質が保たれている.山間の希薄な水はNa-Ca-HCO3型で,溶存成分濃度が高くなるとCa-HCO3型からCa-HCO3-SO4型へと変化する.浜通り,中通りを中心として山麓~低地にかけて,硫酸イオンや硝酸イオンが卓越する水が集中する傾向があった.採取地点は集落,畑の近くで,地下水帯水層に表層から人為的に汚染された排水の付加があると推定される.また,沿岸部の津波浸水域では一部塩化物イオンが卓越した水が見られたが,その濃度は海水に対して極めて希薄である.津波による地下水塩水化は短期間で回復している.一方,西側の越後山脈や奥羽山脈の山間部の河川水は温泉水の流入によるCa-SO型の水質が見られる.
δDとδ18Oの関係は,δダイアグラム上でδ18O=‐9.5‰を境に二本の異なる回帰直線を示した.δ18Oが‐9.5‰より大きいものの回帰線はGMWL(Global Meteoric Water Line)に平行であり,またその大部分が福島県の中通り以東に分布していることから太平洋気団に起源を持つ降水に由来していることが示唆される.特に大きいδ18Oは宮城県から福島県の海岸平野と栃木県の関東平野に分布し,その次に大きいものが阿武隈山地と中通りに分布している.δ18Oが-9.5‰以下の同位体比の小さい試料は特に越後山脈,奥羽山脈に沿って分布する.また日本海気団に由来する天水の回帰線近くの同位体比を持つ.特に標高の高い山地に起源を持つ河川水でこの傾向が顕著であることから,それらは日本海気団に由来する降水を起源としていると判断される.中通りの山麓と北部の福島盆地では多くの試料が,二本の天水線の間にプロットされている.このことはこの地域の水が太平洋気団に由来する降水と日本海気団に由来する降水の両方を起源にしていることを示している.
採取した地下水の滞留時間は7~51年であった.20~30年の滞留時間を示したものが最も多かった.10年以内の短い滞留時間を持つ水は山麓に近い平野に分布する傾向がある.研究地域南部の方が北部より滞留時間が短い傾向があるが.これは南部では涵養源と採水点の距離が比較的近く,流動距離が短いことに起因している.
本研究で分析した試料中の放射性セシウム(Cs-137・Cs-134)は,定量下限値の10Bq/kg以下であり,地下水中の拡散は認められなかった.
東北地方太平洋沖地震から5年が経った.涵養年代を考慮すると今後滞留時間の短い地域から,トリチウムを始めとして,放射性物質の拡散が見られる可能性があり,監視が必要である.