日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW18] 同位体水文学2016

2016年5月25日(水) 10:45 〜 12:15 202 (2F)

コンビーナ:*安原 正也(立正大学地球環境科学部)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、風間 ふたば(山梨大学大学院医学工学総合研究部工学学域社会工学システム系)、高橋 正明(産業技術総合研究所)、鈴木 裕一(立正大学地球環境科学部)、座長:中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)

12:00 〜 12:15

[AHW18-10] 白神山地核心地域における河川水の水素・酸素同位体組成

*網田 和宏1林 武司2 (1.秋田大学大学院理工学研究科附属理工学研究センター、2.秋田大学教育文化学部)

キーワード:白神山地、酸素・水素同位体比

白神山地は青森県南西部と秋田県北西部にまたがる山岳地帯の総称である.本山岳地域における純度の高い原生的なブナ林を主体とする独自の生態系が高く評価され,1993年12月には世界遺産(自然遺産)に登録された.また,1995年に策定された「白神山地世界遺産地域管理計画」によって核心地域(面積10,139 ha)は入山規制がなされており,現在は人間活動による直接的な影響を受けていない状況にある.
しかしその一方で,近年では酸性雨による生態系への影響等が懸念されるなど,大気降下物中に含まれる人為起源物質による山地・森林環境中への窒素付加量の増加が問題となりつつある.そこで我々は,2011年より白神山地南部地域(世界遺産登録地の周辺地域)を中心に河川水および湧水の主要化学組成および水素・酸素安定同位体比測定を行い,水の起源や涵養プロセスに関する検討を行ってきた.
これまでに得られた結果より,本地域の自然水の水素・酸素同位体組成は,D=8×d18O+20の直線に沿うように分布しており,水の起源の多くが天水に由来するものであること,また涵養標高の高い試料,あるいは内陸側の試料ほど水素・酸素同位体比が低い値を示す傾向を持つことも明らかにされてきた.しかし,白神山地の山頂域にあたる核心地域については,これまで調査を行えてこなかったこともあり,水の化学組成および同位体組成についてはほとんど明らかにされていない状態であった.
そこで我々は,白神山地の核心地域において採水調査を実施し,水質および水の水素・酸素同位体比の測定を行った.調査は2015年10月に実施し,核心地域内の4地点において試料を採水することができた.採取された水のdelta-18O,delta-Dはそれぞれ,-9.1~-9.9パーミル,-55.7~-59.4パーミルの範囲にあり,d値は+16.9~+19.9を示した.この値は,これまでに得られてきた結果と比較し,白神山地の南部~南東部の同位体組成より,南西部~西部における組成に近いものといえる.また今回の試料の内,2試料は粕毛川の源流域において採水した試料であったが,過去,粕毛川の下流域において得られた水素・酸素同位体比(-9.9~-10.4‰,-58.4~-60.2‰)と比較して,源流域の水(-9.1~-9.4‰,-55.7~-57.0‰)の方が重い同位体に富むという結果が得られた.本講演では主要化学組成と同位体比との間にみられる関係やこれまでに得られてきた結果との比較なども示しながら,同位体組成からみた,本地域における水循環に関する考察などを行う予定である.