日本地球惑星科学連合2016年大会

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セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW18] 同位体水文学2016

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*安原 正也(立正大学地球環境科学部)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、風間 ふたば(山梨大学大学院医学工学総合研究部工学学域社会工学システム系)、高橋 正明(産業技術総合研究所)、鈴木 裕一(立正大学地球環境科学部)

17:15 〜 18:30

[AHW18-P01] 笛吹川における河川水の安定同位体比について

*笹岡 亮裕1中村 高志2中西 玄樹3 (1.立正大学地球環境科学部環境システム学科、2.山梨大学大学院・国際流域環境研究センター、3.山梨大学大学院医学工学総合教育部国際流域環境科学特別教育プログラム)

キーワード:笛吹川、安定同位体、河川涵養

本研究では,甲府盆地を流れる笛吹川の上流から下流にかけての河川水の安定同位体比の変化の調査を行った.その結果,河川水の同位体比に影響を及ぼす合流河川と地下水の流入の存在が明らかとなった.
甲府盆地の北東部から盆地南東縁に沿って流れる笛吹川には,いくつもの合流する河川が存在している.また,盆地中央部から南部にかけては扇状地性の堆積物で覆われ,その一帯に自噴帯が存在している(高橋,1970).湖沼であった時期に堆積した粘土層が加圧層の役割を果たしているものと考えられる.また,地形や地質構造を考えると,盆地内で涵養された水の流出口は,釜無川と笛吹川の2つの河川が合流する場所でもある盆地南部の一か所しかないと考えられる.そのために,南アルプス・八ヶ岳・御坂山地からの表流水,地下水が集まってくる場所であると考えられる.
盆地南東縁部の自噴井の一般水質の明らかにされているものの,酸素・水素安定同位体比についての検討は行われていない.特に笛吹川左岸・下流域においては過去の文献からも水理地質を含む地下の情報は乏しく,一般水質などの研究も行われていない.そのことを念頭に置きながら,笛吹川上流域から下流域を主な調査対象地域とした.2015年11月に,河川水の採水を含む現地調査を実施し,同位体比の空間分布の把握を行った.その結果,以下のことが明らかとなった.
笛吹川の河川水は降水の高度効果に影響を受け,δDは上流で軽く,下流に向かうにつれて重くなる傾向がみられた.しかし,山間部を抜けて盆地に入った直後の所でδDは軽くなる傾向が認められた (上流域δD;-72.3 ‰→-75.3 ‰).そして,釜無川との合流前の地点 (下流域δD;-73.3 ‰→-74.7 ‰)においてもδDが軽くなる傾向がみられ,高度効果では説明できない現象が確認された.また,δDが軽くなった上流域区間においてはSiO₂濃度が他地点よりも低い値(20.6 mg/L→18.0 mg/L)を示した.これは,上流域ではより軽い同位体比を有した合流河川 (琴川)の水が笛吹川に流入したものとする考え方と一致する.
下流域では,笛吹川(δD;-74.7 ‰)よりも合流河川の芦川(δD;-70.0 ‰)が重い値を示し,笛吹川左岸・下流域における扇状地地下水(δD;-77.9 ‰~-76.9 ‰)は笛吹川の-74.7 ‰δDよりも軽い値を示している.このことから,御坂山地からの河川による影響は認められないが,より標高の高い周辺山間部で涵養され,広域流動系に従って流動する釜無川扇状地および芦川扇状地の地下水が笛吹川に流入し,その同位体比に影響を及ぼしている可能性も考えられる.
すなわち,笛吹川の流下に伴う河川水中のδDの変化をみると,標高が低くなるにもかかわらず,下流に行くにしたがって軽くなる現象が認められた.その原因として,笛吹川上流域における合流河川による影響,そして下流域においては芦川扇状地および釜無川から扇状地を経由した地下水の流れの影響を考えることができる.