日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS03] Marine ecosystem and biogeochemical cycles: theory, observation and modeling

2016年5月23日(月) 10:45 〜 12:10 202 (2F)

コンビーナ:*伊藤 進一(東京大学大気海洋研究所)、平田 貴文(北海道大学地球環境科学研究院)、Hofmann Eileen E.(Old Dominion University)、Charles Stock(Geophysical Fluid Dynamics Laboratory)、座長:平田 貴文(北海道大学地球環境科学研究院)、Stock Charles(Geophysical Fluid Dynamics Laboratory)

11:55 〜 12:10

[AOS03-11] Reproducing migration history of Japanese sardine using otolith δ18O and a data assmilation model

*坂本 達也1小松 幸生2,1白井 厚太朗1上村 泰洋3渡邊 千夏子3川端 淳4米田 道夫5石村 豊穂6樋口 富彦1瀬藤 聡3清水 学3 (1.東京大学大気海洋研究所、2.東京大学大学院新領域創成科学研究科、3.国立研究開発法人水産総合研究センター中央水産研究所、4.水産庁、5.国立研究開発法人水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所、6.茨城工業高等専門学校)

キーワード:sardine, otolith oxygen stable isotope, data assimilation model

日本のマイワシ(Sardinops melanostictus)の資源量は10~数十年スケールで、大変動を繰り返してきた。この変動は海洋環境変化と密接な関係にあると考えられているものの、仲介するメカニズムに関する理解は不十分である。このメカニズムを調べる上で、個体の環境経験履歴という情報は非常に重要であるが、回遊魚であるマイワシにおいてそれを調べることは非常に難しい。そこで本研究では、個体の回遊履歴を再現することを目的とし、耳石δ18Oと海洋同化モデルを用いた推定法の開発に取り組んだ。
多くの魚種の耳石のδ18Oは形成時の周囲の海水のδ18Oと水温に依存して決まるが、マイワシでは確認されていなかった。そこで14.5・18.6・22 ℃の3水温帯で、それぞれ一ヵ月間飼育した。摘出した耳石から直近の一ヵ月間に形成された領域をマイクロミルで削り出した。回収した粉末と飼育水のδ18Oを測定した結果、耳石δ18O = 海水δ18O - 0.186*水温 + 2.77 ( R2 = 0.91) という回帰式が得られ、標準誤差は0.17 ‰であった。また、マイワシの分布する黒潮~親潮域表層における海水δ18Oの観測例は少ない。そこで 2012~2015年に中央水研によって行われた浮魚類の分布調査および2015年9月の新青丸航海にて表層採水し、δ18Oを測定した。その結果、海水δ18Oは南北方向に大きく変化していること、および塩分と強い正の相関があること(海水δ18O = 0.60*塩分 - 20.56 ,R2 = 0.93) が確認された。これら二つの知見から、マイワシ耳石のδ18Oがある値になるためには、ある限られた水温・塩分の場所にいる必要があることがわかる。
2014年9月に千島列島沖で採集したマイワシ当歳魚2個体の耳石を摘出し、樹脂に包埋した後、日輪解析をした。続いてマイクロミル等を用いて耳石縁辺部から中心部に向かって耳石の粉を連続的に採取していき、それぞれδ18Oを測定した。測定に超微量炭酸塩分析システムMICAL3cを用いた個体については10-15日、自動分析システムDELTA V Plusを用いた個体については10-40日という高い時間解像度で、耳石δ18O履歴が得られた。履歴の各δ18O値に対し、対応する日付のFRA-ROMSの0 m深水温・塩分分布を取り出した。各日において、耳石δ18Oが分析値を取りうる水温・塩分の条件を満たす領域を分布の中から特定することで回遊履歴を復元した。
2個体について復元した回遊履歴はどちらも、黒潮親潮移行域から親潮域北部まで回遊していく様子が明瞭に示されていた。また、より高解像度で分析した個体については採集点の近傍を含む領域まで回遊していく様子が再現されていたことから、この手法は個体の回遊履歴の推定に非常に有効であると考えられた。しかしこの方法で得られる推定分布位置は、特に東西方向に大きく広がっているため、今後回遊モデル等、別手法を併用することで、さらに推定領域を絞っていく必要がある。