日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

インターナショナルセッション(ポスター発表)

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS04] Ocean Mixing Frontiers

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*日比谷 紀之(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、St Laurent Louis(Woods Hole Oceanographic Institution)、Lien Ren-Chieh(Applied Physics Laboratory, University of Washington)

17:15 〜 18:30

[AOS04-P04] 生態系モデルによる植物プランクトンの2次元パターン形成の研究

*黒田 雄斗1松浦 知徳2 (1.富山大学大学院理工学教育部、2.富山大学大学院理工学研究部)

キーワード:衛星画像、海洋物理過程、クロロフィルa、生態系モデル、富山湾、反応拡散

富山湾では,6月から7月の梅雨期に表層数mのクロロフィルaの活動が活発となり,湾内において反時計回りの渦状の分布がしばしばみられる(図1).この特徴的な分布は富山湾の物理過程(移流,拡散)と生態系との関係から形成されると考えられるが,その詳細な形成・変動メカニズムは未解明である.そこで,衛星画像,海洋観測データ,および海洋物理過程を導入した生態系モデルを用い,この形成・変動の原因解明に取り組むことを研究の目的とする.
本研究では,生態系モデルとして単純なNPZモデルとし,これに水平2次元の移流拡散項を導入した方程式系に対し,差分法を用いて数値的に解くことによって,クロロフィルaのパターン形成メカニズムを調べた.海域の設定としては,富山湾規模の湾を考え100 km x 100 kmの海域で,モデルの水平解像度を1 km x 1 km とした.モデル計算に関して,拡散係数は10 m2s-1 と一定にし,流れ場は反時計回りの循環場とし,プランクトンのパラメータは,マクロとミクロ,捕食・被食の関係を示す食植速度を変化させて複数の実験を行った.また,特にトレーサーとしての移流拡散方程式と生態系の反応のある移流を加味した反応拡散方程式に対する比較実験を行った.
物理過程だけの移流拡散方程式におけるトレーサーの挙動として,移流だけでは渦状の分布は形成されたが,初期のパッチが伸ばされるだけとなった.水平拡散だけの場合,渦状にはならず,円形に拡散していくだけとなった.移流と拡散の両方を加味した場合には,衛星のパターンに似た形状のトレーサーの分布を示したが,プランクトン量の急激な増加は見られなかった.これに対し,生態系のやり取りとしての反応を加えると顕著なプランクトン量の増減の変動がみられた.さらに,食植速度を大きくしたときや,ミクロパラメータの時,より衛星画像との良い対応がみられた.また,生態系と水平拡散,つまり反応拡散系の場合やさらに移流まで加えたとき,リング状の波動の進行がみられた.
NPZモデルに移流と拡散の効果を導入した移流を加味した反応拡散方程式系のモデルによって,富山湾の衛星画像で見られたクロロフィルaの分布に近いパターン(図1)を再現することができた.このことから,衛星画像で見られたパターンは海洋物理過程が反時計回りの渦の形状を決める主要因となっており,拡散だけでなく移流の効果が大きな役割を果たしていることが分かった.また,図1aから図1bへのパターン発達に関しては,1日で変化しており,移流拡散の時間現象スケールよりずっと速く,パターン発達に関して生態系の反応が重要な役割を果たしていることが分かった.様々なケースのモデル結果から得られたパターンにおけるリング状の波の進行は,反応拡散現象に現れるものと類似しており,今後より詳細に解析を行う.