日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS14] 「海洋混合学」物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明

2016年5月22日(日) 10:45 〜 12:15 102 (1F)

コンビーナ:*吉川 裕(京都大学大学院理学研究科)、原田 尚美(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、西岡 純(北海道大学低温科学研究所)、座長:吉川 裕(京都大学大学院理学研究科)

11:30 〜 11:45

[AOS14-04] 栄養塩のミッシングソース -貧栄養海域における栄養塩の供給メカニズム-

*本多 牧生1Siswanto Eko1松本 和彦1岡 英太郎2Cronin Meghan3 (1.海洋研究開発機構、2.東京大学、3.米国海洋大気庁)

キーワード:貧栄養海域、基礎生産力、栄養塩、中規模渦、気象擾乱、時系列観測

北西部北太平洋亜熱帯海域表層は1年を通して栄養塩濃度が極めて低いか枯渇している。それにもかかわらず基礎生産力は1年を通して栄養塩が豊富な亜寒帯域のものに匹敵することが近年報告されてきた。この基礎生産力を維持するための栄養塩の供給メカニズムを解明するために、米国海洋大気庁(NOAA)が表層ブイ(NOAA-KEO buoy)を用いて海洋気象海洋・物理を観測している西部北太平洋亜熱帯海域観測定点KEO付近の水深5000mに時系列式セジメントトラップを設置し、2014年7月から約1年間、基礎生産力の変動と連動した沈降粒子の季節変動を観測した。全粒子フラックスは観測期間中3回の顕著な増加をしていた:(1) 2014年10月前半、(2) 2015年1月前半、(3) 2015年4月後半。2014年9月にKEO付近を2個の台風が通過しており、衛星データの解析の結果、台風通過後に表層水温が低下しクロロフィルaが増加していたことが明らかになっている。NOAA-KEO buoyの500m以浅の水温データの解析の結果、台風通過後に突発的に亜表層水の湧昇が発生していたことがわかった。一方、台風が通過していない2014年7月、11月には約1ヶ月間にわたる亜表層水の湧昇が確認された。これは同海域を通過した中規模渦によるものと推察された。また2015年2月〜3月を中心に冬季冷却混合が活発であったことが窺えた。これらの湧昇と沈降粒子の増加は、タイムラグを考慮すると概して同調していた。従って観測された全ての鉛直混合が亜表層の栄養塩を、栄養が枯渇した表層へ供給し基礎生産力を増加させ引いては沈降粒子の増加につながったと推察された。今後は生物地球化学的・気象学的・海洋物理学的時系列観測を継続しながら、台風等の気象擾乱、中規模渦、さらには大気からの栄養塩供給等も考慮して、同海域の栄養塩供給メカニズムを定量化していく予定である。