日本地球惑星科学連合2016年大会

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セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS14] 「海洋混合学」物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*吉川 裕(京都大学大学院理学研究科)、原田 尚美(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、西岡 純(北海道大学低温科学研究所)

17:15 〜 18:30

[AOS14-P05] 海洋表層乱流が粒子沈降に及ぼす影響に関する数値実験

*吉川 裕1萬年 隆裕1 (1.京都大学大学院理学研究科)

キーワード:海洋表層乱流、沈降粒子

海洋表層の植物プランクトンは、海洋中の食物連鎖を経て、最終的にはマリンスノーなどと呼ばれる沈降粒子として海洋深層へと沈む。この際、光合成により吸収した海洋表層の二酸化炭素も海洋深層へと輸送する。この過程は生物ポンプと呼ばれ、海洋中の炭素循環を担う重要な過程の一つとされる。粒子の沈降に、その粒子の大きさや密度に加えて、流体の乱れ(乱流)が関与するのは、大気中のエアロゾルの沈降過程など、他の流体中における粒子の沈降過程と同様である。
先行研究によれば、乱流が粒子の沈降速度に与える影響は乱流の様子や粒子の性質により様々である(例えばCargnelutti and Portela 2007)。しかし、植物プランクトンのように粒子の慣性が小さく(流体運動にすぐに馴染む)、乱流が等方・準定常的あるならば、乱流は沈降速度に影響を与えないとの指摘がある(Maxey 1987)。一方、海洋混合層に取り残される植物プランクトンに着目した数値実験(Noh et al. 2006)では、乱流がより多くの粒子を混合層に留める(粒子の沈降速度を減少させる)こと、とりわけラングミュア乱流と呼ばれる波浪に起因する乱流はその効果が大きいことが示されている。このように、海洋表層の乱流が粒子の沈降に与える影響についても不明な点が多い。
本研究では、先行研究と同様に海上の風に伴う乱流とラングミュア乱流が海洋表層混合層に作る乱流場を、ラージエディシミュレーションを行うことで再現し、さらに仮想粒子の追跡も行うことで、海水中の粒子の沈降速度に与える乱流の影響を評価した。その際、Noh et al. (2006)のように混合層に取り残された粒子のみを解析するのではなく、混合層下に沈んだ粒子を海面付近に再配置することで、混合層下に沈む粒子も含めた全ての粒子の定常的な沈降過程を解析する。これにより、乱流が沈降粒子に準定常的に与える影響を明らかにする。
実験の結果、乱流が沈降速度に与える定常的な影響は、静止流体中の粒子の沈降速度と乱流強度を代表する鉛直流速のRMSとの比(流速比と呼ぶ)を用いて、(1)流速比が0.1程度では乱流により粒子の沈降が加速されること、(2)流速比が10程度では粒子の沈降が減
速されること、(3)流速比10程度での沈降速度の減速はラングミュア乱流により強化されること、などが明かになった。