日本地球惑星科学連合2016年大会

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インターナショナルセッション(ポスター発表)

セッション記号 B (地球生命科学) » B-AO 宇宙生物学・生命起源

[B-AO01] Astrobiology: Origins, Evolution, Distribution of Life

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*小林 憲正(横浜国立大学大学院工学研究院)、山岸 明彦(東京薬科大学生命科学部)、大石 雅寿(国立天文台天文データセンター)、田近 英一(東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻)、掛川 武(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、井田 茂(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、Voytek Mary(NASA Headquarter)、Kirschvink Joseph(Division of Geological and Planetary Sciences, California Institute of Technology, Pasadena, CA, USA)

17:15 〜 18:30

[BAO01-P02] Amino acid formation from simulated midly-reducing primitive atmospheres by spark discharges, UV irradiation and proton irradiation

*青木 涼平1伊勢 絢一1福田 一志2近藤 康太郎2小栗 慶之2癸生川 陽子1小林 憲正1 (1.横浜国立大学、2.東京工業大学)

キーワード:midly-reducing primitive atmospheres, spark discharge, proton irradiation, UV irradiation, amino acids

生命の誕生に先立ち、アミノ酸などの有機物が無生物的に生成したと考えられる。1953年、ミラーは、原始地球大気を模擬したCH4、NH3、H2、H2Oからなる強還元型混合気体に、雷を模擬した火花放電実験を行い、アミノ酸が無生物的に生成することを確認した[1]。しかし、現在では原始地球大気はこのような強還元型ではなく、 N2やCO2などが主とし、これに少量の還元型ガス(CO、CH4など)が加わった弱還元型大気であったことが示唆されている[2]。そこで本研究では、様々な混合比のN2、CH4、CO2の混合気体に様々なエネルギーを与え、原始地球上でのアミノ酸生成の可能性について検討した。エネルギー源は、火花放電(雷を模擬)、陽子線(宇宙線を模擬)、紫外線の3種類を用いた。
出発物質として、N2(50%)、CH4(0~50%)、CO2(バランス)の混合気体(全圧700 Torr)と、超純水5 mLを用いた。以下、各混合気体はCH4比率で表す。
<火花放電実験> Pyrex製容器に混合気体700 Torrと超純水5 mLを入れ、テスラコイルを用いて1対のタングステン電極間で放電を12時間(1分間隔のON-OFFサイクルを24時間繰り返し)行った。全エネルギーは864 kJと試算された。
<陽子線照射実験> Pyrex製容器に混合気体700 Torrと超純水5 mLを入れ、タンデム加速器(東京工業大学)からの2.5 MeV陽子線を2 mC照射した。CH4比率の低い,CH4 1%, CH4 0.5 %などの実験も行った。全エネルギーは3.16 kJであった。
<紫外線照射実験> 石英窓のついたPyrex製容器に混合気体700 Torrと超純水5 mLを入れ、紫外線ランプ(浜松ホトニクスL1835)を用いて紫外線を12時間照射した。全エネルギーは136 Jと推定される。
放電もしくは照射後に、容器内の生成物(水溶液)を回収し、その一部を酸加水分解(6 M HCl中で110℃、24時間加熱)した後、陽イオン交換HPLC法(o-フタルアルデヒドとN-アセチル-L-システインによるポストカラム誘導体化-蛍光検出)を用いてアミノ酸の定量を行った。
どの実験生成物も、酸加水分解前はアミノ酸がほとんど検出されなかったが、酸加水分解後には、出発物質の組成により種々のアミノ酸の生成が確認できた。その中でグリシン(Gly)の生成量が最も多かったため、以後,加水分解後のGlyの生成量を中心に議論する。
火花放電実験では、CH4比率10%以下ではGlyの生成は確認できなかったが、CH4比率15%では少量(12.0 nmol)のGlyの生成が確認され、CH4比率50%では最も多く(3.64×104 nmol)のGlyが生成した。CH4比率10%~15%間にアミノ酸生成の閾値があることが示唆された。
陽子線照射実験では、CH4比率0.5%でもGlyが生成し(6.83 nmol)、基本的にCH4比率が大きくなるほど生成量が増えた。CH4比率50%でのGly生成量は1.53×104 nmolであり,火花放電よりも低いが、エネルギー収率は火花放電より高かった。火花放電とは異なり、CH4濃度の閾値がないことが示唆された。
紫外線照射実験では、CH4比率0%~30%ではアミノ酸の生成は確認できなかったが、CH4比率40%、50%では極少量の生成が確認できた。ただし、これがコンタミネーションでないことを確認する必要がある。
以上から、与えるエネルギーによってアミノ酸生成の傾向が異なり、その反応機構が異なる可能性が示唆された。
実際の原始地球大気は弱還元型でCH4比率は極めて低いと想定されるため、雷や紫外線をエネルギー源としたアミノ酸生成の可能性は低いと考えられるが、宇宙線であればアミノ酸前駆体が生成された可能性が高いと思われる。一方、紫外線単独では、弱還元型大気からのアミノ酸生成は困難であるが、原始地球に降り注いでいた紫外線のエネルギーフラックスは極めて高いため、紫外線と宇宙線や放電とのシナジー効果を検証する必要がある。
参考文献
[1] Stanly L.Miller, Science, 117, 528-529, 1953.
[2] J. F. Kasting, Science, 259, 920-926, 1993.
[3] 伊勢絢一,修士論文, 2015