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[BCG09-10] 高アルカリ条件下における酸化マグネシウムによる亜セレン酸の取り込み
キーワード:亜セレン酸、酸化マグネシウム、準安定相、水酸化マグネシウム、アルカリ条件
石炭火力発電所における脱硫過程で発生する排水に工業排水基準(100ppb)を超えるセレンが含まれるケースが報告されている(電力中央研究所, 2005). 溶液は排煙を高率的に溶かし込む為, アルカリ性に保たれている. セレンは溶液中で主にセレン酸(HxSeO42-x, Se(Ⅵ))又は亜セレン酸(HySeO32-y, Se(Ⅳ))として存在し, 陰イオンを形成する. 脱硫過程で発生する廃液中においてセレンの多くは亜セレン酸として存在している(電力中央研究所, 2005). その為, アルカリ条件下における亜セレン酸の効率的な除去が望まれている.
酸化マグネシウム(MgO)は地表環境で準安定相であり, 水溶液中でブルーサイト(Mg(OH)2)に変質する(矢部 他, 2011). また, MgOが変質したMg(OH)2は高い反応性を持ち,溶液中の陰イオンに対して有効な除去能力を持つとされている(Liu et al., 2011). 本研究では, 低濃度条件における収着挙動の理解する為, 本研究では酸化マグネシウムによる溶液中での低濃度における亜セレン酸の取り込み挙動とそのメカニズム検討した.
本研究ではMgO試料としてクニミネ工業製:M511を使用した(以降M511試料). また, M511試料をNaCl0.01Mに調整した溶液で60時間反応させ, 凍結乾燥したものをMg(OH)2試料(以降Brucite試料)とした. 試料は其々, BET法にて比表面積を測定し, XRDにて鉱物相の同定を行った.
バッチ収着実験はNaCl0.01M, 初期亜セレン酸濃度2μM(160μM)に調整した混合溶液50mlに対して固液比2g/Lとなるように固体を添加し行った.懸濁液が入ったポリ容器は大気にオープンとし, 25℃又は10℃に保たれたインキュベーター内のマグネティックスターラーで0.5-60時間反応させた. 各反応時間でpH測定後,固液分離し, 液相は濃硝酸を添加した. 固相はイオン交換水で数回洗浄し, 凍結乾燥した. 液相はICP-OESにてMg濃度を測定し, ICP-MSにてSe濃度を測定した.固相はXRDにて鉱物相の同定を行った. 測定したpHやCa,Mg,Se濃度より各種のスペシエーション分析と関連鉱物の飽和指数をGeochemist’s Workbench(GWB,1998)で計算した.
XRDパターンよりM511試料は24時間で完全にMg(OH)2に変質した. 懸濁液のpHは両試料共に,30分の時点で11程度の高い値を示し, 時間経過に伴い減少した. M511試料とM511試料より作成したBrucite試料との間にはSe(Ⅳ)の収着能に対し, 大きな差が認められた. 160μg/LであったSe(Ⅳ)濃度は, M511試料では数μg/L程度までSe(Ⅳ)濃度が低減したのに対し, Brucite試料ではM511試料より全ての実験期間を通し高い値を示し, 最大で58μg/Lまでしか低減しなかった. この収着能の違いはM511試料とBrucite試料のSe(Ⅳ)の収着メカニズムの違いに起因すると考えられる.
安定なBrucite試料ではMg(OH)2の高いpHIEPにより, 表面水酸基とSe(Ⅳ)とで表面錯体生成をし, Se(Ⅳ)を表面に2次元的に吸着すると考えられる. 一方, 準安定相であるM511試料ではMgOが溶解し, Mg(OH)2へと変質する. Brucite試料と同様に生成したMg(OH)2にSe(Ⅳ)が吸着するが, その後Mg(OH)2の結晶成長が生じ, その結晶内にSe(Ⅳ)を3次元的に保持すると考えられる.
参考文献
・電力中央研究: 石炭火力発電所脱硫装置におけるセレンの化学形態: 電力中央研究所報告書, M040015(2005)
・福士 圭介, 酸化物による無機陰イオンの吸着, 粘土科学, 47(2008) 121-158
・Yang Liu, Qi Li, Shian Gao, and Jian Ku Shang, Exceptional As(Ⅲ) sorption Capacity by Highly Porous Magnesium Oxide Nanoflakes Made from Hydrothermal Synthesis, The American Society, 94(2011) 217-223
・M. del Mar de la Fuente Garcia-Soto, and Eugenio Munoz Camacho, Boron removal by means of adsorption with magnesium oxide, Separation and Purification Technology, 48(2006) 36-44
・矢部 太章, 福士 圭介, 伊藤 弘志, 窪田 宗弘, 桝 谷優, 水溶液中における酸化マグネシウムの変質挙動, 粘土科学, 49(2011) 135-140
酸化マグネシウム(MgO)は地表環境で準安定相であり, 水溶液中でブルーサイト(Mg(OH)2)に変質する(矢部 他, 2011). また, MgOが変質したMg(OH)2は高い反応性を持ち,溶液中の陰イオンに対して有効な除去能力を持つとされている(Liu et al., 2011). 本研究では, 低濃度条件における収着挙動の理解する為, 本研究では酸化マグネシウムによる溶液中での低濃度における亜セレン酸の取り込み挙動とそのメカニズム検討した.
本研究ではMgO試料としてクニミネ工業製:M511を使用した(以降M511試料). また, M511試料をNaCl0.01Mに調整した溶液で60時間反応させ, 凍結乾燥したものをMg(OH)2試料(以降Brucite試料)とした. 試料は其々, BET法にて比表面積を測定し, XRDにて鉱物相の同定を行った.
バッチ収着実験はNaCl0.01M, 初期亜セレン酸濃度2μM(160μM)に調整した混合溶液50mlに対して固液比2g/Lとなるように固体を添加し行った.懸濁液が入ったポリ容器は大気にオープンとし, 25℃又は10℃に保たれたインキュベーター内のマグネティックスターラーで0.5-60時間反応させた. 各反応時間でpH測定後,固液分離し, 液相は濃硝酸を添加した. 固相はイオン交換水で数回洗浄し, 凍結乾燥した. 液相はICP-OESにてMg濃度を測定し, ICP-MSにてSe濃度を測定した.固相はXRDにて鉱物相の同定を行った. 測定したpHやCa,Mg,Se濃度より各種のスペシエーション分析と関連鉱物の飽和指数をGeochemist’s Workbench(GWB,1998)で計算した.
XRDパターンよりM511試料は24時間で完全にMg(OH)2に変質した. 懸濁液のpHは両試料共に,30分の時点で11程度の高い値を示し, 時間経過に伴い減少した. M511試料とM511試料より作成したBrucite試料との間にはSe(Ⅳ)の収着能に対し, 大きな差が認められた. 160μg/LであったSe(Ⅳ)濃度は, M511試料では数μg/L程度までSe(Ⅳ)濃度が低減したのに対し, Brucite試料ではM511試料より全ての実験期間を通し高い値を示し, 最大で58μg/Lまでしか低減しなかった. この収着能の違いはM511試料とBrucite試料のSe(Ⅳ)の収着メカニズムの違いに起因すると考えられる.
安定なBrucite試料ではMg(OH)2の高いpHIEPにより, 表面水酸基とSe(Ⅳ)とで表面錯体生成をし, Se(Ⅳ)を表面に2次元的に吸着すると考えられる. 一方, 準安定相であるM511試料ではMgOが溶解し, Mg(OH)2へと変質する. Brucite試料と同様に生成したMg(OH)2にSe(Ⅳ)が吸着するが, その後Mg(OH)2の結晶成長が生じ, その結晶内にSe(Ⅳ)を3次元的に保持すると考えられる.
参考文献
・電力中央研究: 石炭火力発電所脱硫装置におけるセレンの化学形態: 電力中央研究所報告書, M040015(2005)
・福士 圭介, 酸化物による無機陰イオンの吸着, 粘土科学, 47(2008) 121-158
・Yang Liu, Qi Li, Shian Gao, and Jian Ku Shang, Exceptional As(Ⅲ) sorption Capacity by Highly Porous Magnesium Oxide Nanoflakes Made from Hydrothermal Synthesis, The American Society, 94(2011) 217-223
・M. del Mar de la Fuente Garcia-Soto, and Eugenio Munoz Camacho, Boron removal by means of adsorption with magnesium oxide, Separation and Purification Technology, 48(2006) 36-44
・矢部 太章, 福士 圭介, 伊藤 弘志, 窪田 宗弘, 桝 谷優, 水溶液中における酸化マグネシウムの変質挙動, 粘土科学, 49(2011) 135-140