日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG09] 生命-水-鉱物-大気相互作用

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、大竹 翼(北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門)、鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、高井 研(海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター)、上野 雄一郎(東京工業大学大学院地球惑星科学専攻)、長沼 毅(広島大学大学院生物圏科学研究科)、掛川 武(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、横山 正(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)、白石 史人(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)

17:15 〜 18:30

[BCG09-P02] 新潟県上越市上部中新統のメタン湧水炭酸塩岩中の吸着ガス分析

*宮嶋 佑典1井尻 暁2村山 雅史3 (1.京都大学大学院理学研究科、2.海洋研究開発機構高知コア研究所、3.高知大学海洋コア総合研究センター)

キーワード:メタン湧水、炭酸塩、中新世、上越市、吸着ガス

海底から主にメタンを含む流体が湧き出すメタン湧水は,天然ガスの主成分かつ強力な温室効果ガスであるメタンの主要な放出の場であることから着目されてきた.メタン湧水ではメタン酸化古細菌と硫酸還元菌の共同体によりメタンが嫌気的に酸化され,生成する重炭酸イオンからメタン由来の炭酸塩鉱物が沈殿する.地質時代のメタン湧水も,地層中に保存された炭酸塩岩のメタンに由来する低い炭素安定同位体比や,嫌気的メタン酸化に関与する微生物のバイオマーカーから認定でき,過去のメタンの生成と移動,放出の直接の証拠として重要である.メタンは堆積物浅部での微生物または深部での熱による有機物の分解により生成し,それらはメタンの炭素安定同位体比などで識別される.過去の湧水中のメタンが微生物起源か熱分解起源かを明らかにできれば,過去の湧水の起源深度や湧出経路が推定できるほか,石油や天然ガスの生成時期の理解にもつながると考えられる.しかしながら,その起源を直接推定する方法は確立されていない.堆積物中の自生炭酸塩岩は周囲の炭化水素ガスを吸着することが報告されており(Ijiri et al., 2009),もし同様に地層中のメタン湧水炭酸塩岩がそれを沈殿させた過去の湧水中のメタンを吸着していれば,その同位体比などを測定することで起源を推定できる可能性がある.そこで本研究では,過去の湧水中のメタンの起源を推定するため,メタン湧水炭酸塩岩からの吸着ガスの抽出および炭素安定同位体比(δ13C)の分析を試みた.分析には新潟県上越市の上部中新統能生谷層より採取した炭酸塩岩を用いた.この炭酸塩岩は暗灰色のミクライト質アラゴナイトを基質とし,明色の針状アラゴナイト結晶で縁取られた多数の空隙を持つ.ミクライト部も空隙中の針状アラゴナイト部も低いδ13C値(−42.6~−15.4‰ vs. PDB)を示し,また前者には嫌気的メタン酸化古細菌のバイオマーカーであるペンタメチルイコサン(PMI),クロセタンが含まれ,炭酸塩岩がメタン湧水で沈殿したことを示している.吸着ガスは炭酸塩粉末をリン酸で溶解させることで放出させ,GC-IRMSに導入して濃度と炭素同位体比の分析を行った.分析を行ったすべての試料からメタンを抽出することができ,そのδ13C値は−60.7~−40.0‰と幅広い値を示した.δ13C値より,抽出されたメタンには微生物起源メタンと熱分解起源メタンが様々な比率で混合したもの,あるいはメタン酸化に伴う分別により同位体比の高くなった微生物起源メタンが含まれていることが示唆される.メタンと炭酸塩の炭素同位体比は弱い正の相関を示し,例外はあるものの空隙を縁取る針状アラゴナイト部の方がメタン・炭酸塩のδ13C値ともにミクライト部より低い傾向が見られた.このことから炭酸塩沈殿時に周囲の湧水中のメタンが捕獲されており,炭酸塩の各組織の沈殿場の条件(堆積物中または空隙中)とそれらに供給・捕獲されたメタンの起源やフラックスとが関連している可能性がある.ただし,メタンが炭酸塩沈殿後や埋没過程で吸着された可能性もあるため,今後炭酸塩中のガスがどのように存在しているのか明らかにし,メタンが炭酸塩に捕獲・吸着された過程を検討していく必要がある.