日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT05] 地球史解読:冥王代から現代まで

2016年5月25日(水) 10:45 〜 12:15 105 (1F)

コンビーナ:*小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)、座長:山本 伸次(横浜国立大学大学院環境情報研究院)

11:00 〜 11:15

[BPT05-08] 全球海洋モデルに基づく初期地球海洋潮汐の定量的検討

*元山 舞1綱川 秀夫1高橋 太2 (1.東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻、2.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻)

キーワード:初期地球、海洋、潮汐

海洋が存在し大陸は未発達であったと考えられる初期地球では、海洋潮汐が地球表層環境や生命環境に与える影響は重要である。月は地球から約3RE程度(RE:地球半径)離れたところで形成されたとするジャイアント・インパクト仮説に基づくと、初期地球に作用する潮汐力(平衡潮汐)は現在(地球・月間距離~60RE)と比較して約十倍から千倍だったと推測される。一方、潮汐力を外力とする海洋の応答を考えると、潮汐力の振動数が海洋の固有振動数から大きくずれてしまい、潮汐波は減衰していた可能性がある(Abe et al., 1997; Abe and Ooe, 2001)。これまでの研究では、地球・月システムの進化、特に地球自転速度と月軌道の進化を取り扱っており、初期地球の海洋潮汐を定量的に研究した例はほとんどない。そこで本研究では、初期地球の全表面を一様深度の海洋が覆っていたとする全球海洋モデルを仮定し、地球自転速度、海洋深度、および粘性をパラメータとして海洋潮汐の共振・減衰を検討した。
潮汐応答はモードによって大きく異なるため、各種モードの応答を調べる必要がある。全球海洋モデルにおける固有振動モードを、球面調和関数(Ynm、n:次数、m:位数)によって表すと、次数n は緯度方向のパターン、位数mは経度方向のパターンを与える。地球・月間の距離をd(= 3-60 RE)とすると潮汐力はd-(n+1)に比例するため、初期地球の主要な潮汐力としてn=2、3の2種類のモードを検討する必要がある。また、潮汐力の角振動数 (ω)は地球自転の角振動数(Ω)によってほぼ決まり、m=2は半日周期の外力(ω=2Ω)、m=1は1日周期の外力(ω=Ω)になる。一方、全球海洋モデルにおける海洋の固有角振動数(ω0)は、海洋深度、地球自転速度に応じて固有振動モードごとに決まる。潮汐力の角振動数が海洋の固有角振動数に近い場合(ω≈ω0)、共振が生じ潮汐波は増幅される。潮汐力の角振動数が海洋の固有角振動数と大きく異なる場合、ω≫ω0ならば潮汐波は減衰してゼロに近づき、ω≪ω0ならば潮汐波は平衡潮汐へ近づく。海洋の粘性は増幅を抑えるとともに、共振角振動数を若干小さい方へずらす。
現海水量を全地球表面に平均化すると約2600mになることから、1300m、2600m、5200mの3つの海洋深度を仮定し、Longuet-Higgins (1968)の方法により、地球自転の角振動数で規格化した固有角振動数(ω0/2Ω)を求めた。また、従来の研究に基づき、地球自転周期(LOD = 2π/Ω)は5-24時間の範囲をとるとした(e.g. Mignard, 1982; Stacey and Davis, 2008)。粘性を含む海洋の応答として1次元モデルを拡張した応答関数を適用した。粘性(b)は海底における摩擦と渦粘性を考慮し、b=0.01m/sおよびb=0.1m/sの2つのケースを検討した(Schwiderski, 1980; Abe et al., 1997)。本研究の解析の結果、Y31、Y21の2つの1日周期モードが共振しうることがわかった。また、Abe et al. (1997)が示したように、現在の主要潮である半日周期モードY22は、仮定したパラメータ範囲内では共振せず、平衡潮から減衰する。
これらの応答に基づき潮汐波高を定量的に推定するためには、地球自転角速度と地球・月間距離とを関係付けるモデルが必要である。次数3までの応答を考慮した従来のモデルはないが、Stacey and Davis (2008)の進化モデルを採用すると、例えば1300mの全球海洋においてモードY31、Y21の振幅は数十m、周期は十時間程度となる。全球海洋モデル、パラメータ、共振の継続時間などについて詳細な検討が必要であるが、このような共振は、潮汐波による浸食が大陸形成を阻害するなど、初期地球表層の環境に大きな影響を与えた可能性が示唆される。さらに、地球・月システム進化モデルの再検討を要するかもしれない。