日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT05] 地球史解読:冥王代から現代まで

2016年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 105 (1F)

コンビーナ:*小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)、座長:斎藤 誠史(独立行政法人海洋研究開発機構)

13:45 〜 14:00

[BPT05-13] 中央海嶺熱水系は二次的生息場

*丸山 茂徳1 (1.東京工業大学地球生命研究所)

キーワード:塩分濃度、原初大陸、中央海嶺熱水系

「地球生命が母なる海で誕生した」というイメージは実は間違いである。地球誕生直後の原始海洋は猛毒で、生物が誕生し生息できるような環境ではありえない。地球形成論から導かれる原始海洋の化学組成は、超酸性(pH<1)、高塩分濃度(現在の5-10倍)、かつ重金属に非常に富む海洋にならざるを得ない。したがって、生命の誕生は猛毒海洋を逃れた場所、つまり、きれいな淡水をたたえることができた陸上の環境であったはずで、具体的には自然原子炉間欠泉で初めて生命が誕生しただろう。そういった環境では無数のコモノートが生まれたが、猛毒海洋にさらされることによって大量絶滅を繰り返した。そのような強力な環境的外圧と度重なる大量絶滅を免れたのが、古細菌と真正細菌であり、現在の動物と植物の祖先である。
時間とともに、大陸から供給される岩石と猛毒海洋の相互作用によって海洋の浄化が進むと、酸性だった海洋は中性に近づき、重金属元素はプレートテクトニクスが機能することによって鉱床として中央海嶺で固定されるため、海洋から取り除かれた。塩分濃度は6.35億年前までに現在の2倍程度まで低下したことがわかっているが、太古代までは高塩分な状態が維持されたままであった。したがって、一般的には、海洋は生物が生息するには困難な場であった。
しかし、中央海嶺はそのような困難さを例外的に解消できる場である。中央海嶺では、断層に沿って地下に流入する熱水が沸騰し、重い濃厚塩水と真水に近い水に分離し上昇している。中央海嶺周辺以外の海洋の塩分濃度は現在の5倍程度も高かったので、生物が棲息できる環境ではなかったが、中央海嶺熱水系周辺は生物の生存が可能な程度に塩分濃度が低かった。従って、中央海嶺熱水系で、生物が生息可能だったのである。
しかし、前述したように、中央海嶺熱水系は生命誕生場ではありえない。海洋組成に加えて、中央海嶺熱水系は環境多様性とその変化がほとんど存在しないことも大きな理由のひとつである。従って、生命は陸上で誕生し、その後、進化の過程で中央海嶺に進出した。そして、中央海嶺に住み着いた生物は、過去の機能を効率よく残した化石生物となったのである。