日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT05] 地球史解読:冥王代から現代まで

2016年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 105 (1F)

コンビーナ:*小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)、座長:斎藤 誠史(独立行政法人海洋研究開発機構)

14:45 〜 15:00

[BPT05-17] 重晶石の局所硫黄同位体分析による32億年前の海水・熱水環境推定:西オーストラリア・デキソンアイランド層について

*三木 翼1清川 昌一1高畑 直人2石田 章純2伊藤 孝3池原 実4山口 耕生5,6佐野 有司2 (1.九州大学 大学院理学府 地球惑星科学専攻、2.東京大学 大気海洋研究所、3.茨城大学 教育学部、4.高知大学 海洋コア総合研究センター、5.東邦大学 理学部、6.Astrobiology Institute, NASA)

キーワード:太古代、硫黄同位体、重晶石、二次元高分解能二次イオン質量分析装置

地質時代を通しての海洋硫酸塩の硫黄同位体比(δ34S)と濃度の変動は, 地球表層の酸素濃度および硫酸還元菌の活動と密接な関係がある. 例えば太古代において, 硫酸塩δ34Sは+4.6‰ (3.47Ga; Shen et al., 2009), 海洋硫酸イオンの濃度は<2.5 μM (>2.4Ga; Crowe et al. 2014)などとされている. しかし古原生代になると海洋中の酸素濃度上昇にともなって海洋硫酸イオン濃度が上昇し, 1~2mM(>1.6Ga; Kah et al., 2004)まで達したと言われている. また海洋硫酸イオンが増えると微生物による硫酸還元が活発化し, 硫酸中の硫黄のうち同位体的に軽い32Sが選択的に代謝に用いられて硫化物へと変わり, 残存する硫酸イオンのδ34Sは高くなる. したがって太古代の硫酸塩は原生代のものより低い値のδ34Sをとることが知られている(e.g. Canfield and Farquhar, 2009).
このように過去の硫酸塩鉱物のδ34Sは沈殿当時の海洋の酸化還元状態や微生物による硫酸還元システムの解明への大きな手がかりになる. しかし太古代の硫酸塩δ34S値の報告例は少なく, その中でも研究対象地域や時代に偏りがあり,当時の海洋状態はまだ明らかになっていない. そのため本研究では外洋の比較的深海環境と考えられる32億年前のデキソンアイランド層中に残存する沈殿物である重晶石(BaSO4)層に新たに注目し, 重晶石のδ34S分析を行った.
デキソンアイランド層は西オーストラリアの海岸ピルバラグリーンストーン帯に位置し, 低変成を被った堆積層である(Kiyokawa and Taira, 1998). 重晶石層は熱水脈直上に位置するデキソンアイランド層黒色チャート部層中に互層として存在している. 重晶石層の大部分は珪化している(Kiyokawa et al., 2006)が, 200μm以下の微小な重晶石結晶が残っており, 初生の重晶石が珪化を免れて残ったものだと考えられる. そのため分析には重晶石層を含む異なる層準の3つの岩石試料を粉砕・重液分離して得た計12粒の微小重晶石結晶を用い, NanoSIMSによるμmスケールでのδ34S局所分析を行った.
実用標準試料としては, δ34S値が均質と考えられ, 安定同位体用質量分析計による値付けを行った5つ[KS8] の鉱床性重晶石を用いた. また測定試料は1粒の結晶に対して2点ないし3点のラスター分析を行い, その平均から値を求めた. 12粒を分析した結果, δ34Sは-2.1‰から+18.7‰までの幅広い値(n=12, Avg.=+6.5‰, 1σ=6.3‰)を取った. 一方1つの岩石試料ごとの平均値はそれぞれ+3.4, +7.8, +8.4‰であった. 測定誤差は±0.87‰〜±3.72‰であった.
岩石試料ごとの平均値のみを見ると, 報告されている太古代硫酸塩(+5~10‰, Canfield and Farquhar, 2009)と同程度の値をもつ. 一方で値が幅をもつことに着目すると, 低い値のものはマントル起源の硫黄(約0‰)と同程度であり, 熱水起源の硫酸の組成を反映している可能性がある. また高い値のものは現代の海洋硫酸イオンのδ34S(+22‰)に近く, 太古代としては異常に高い値であると言える. このような非常に重い硫酸イオンを形成するメカニズムとしては, 硫酸イオンに関して閉鎖的環境下での微生物による極端な硫酸還元(レイリー分別)や, 熱水自身がすでに重い硫酸イオンを供給していた可能性が考えられる.
重晶石微小結晶に関する局所δ34S分析を試みた例は初めてであり, それにより3つの重晶石単層内での同位体的不均質を見出すことができた. 燃焼法で得られた従来までの分析データではこのような同位体不均質を混合した1つの平均値として見ている. 今回の硫酸塩の結晶化時のδ34Sの幅は, 当時の海洋硫酸イオンの不均質性を示している可能性がある.