日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT05] 地球史解読:冥王代から現代まで

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)

17:15 〜 18:30

[BPT05-P16] Pb同位体比組成に基づく鹿児島県赤石金鉱床の成因解明

*村上 俊平1藤永 公一郎2,1大田 隼一郎3,1安川 和孝1,2中村 謙太郎1加藤 泰浩1,2,3黒川 恭平4岩森 光3,5永石 一弥6石川 剛志3 (1.東京大学大学院工学系研究科、2.千葉工業大、3.海洋研究開発機構、4.三井串木野鉱山株式会社、5.東京工業大学、6.マリン・ワーク・ジャパン)

キーワード:赤石金鉱床、スラブ起源流体、Pb同位体比、鉱化熱水、熱水性鉱床

鉱床の成因を理解することは,新規鉱床の探査指針を確立する上で極めて重要である.鹿児島県薩摩地域は,世界最高レベルの品位を誇る菱刈鉱床 (北薩型金鉱床) をはじめ [1],赤石鉱床,岩戸鉱床,春日鉱床 (いずれも南薩型金鉱床) など複数の金鉱床が密集しており,これらの金鉱床の成因を統一的に理解することができれば,日本列島に眠る新たな金鉱床の発見につながる可能性がある.
鹿児島県薩摩地域に分布する金鉱床は,いずれも浅熱水性鉱床に分類されている.従来,こうした熱水性鉱床はマグマから発生したマグマ水,もしくはマグマを熱源として循環した天水が周囲の岩石と反応しながら鉱化熱水を形成し,そこから有用金属を濃集した鉱物が沈殿・集積して生成したものと考えられてきた [2].このような従来の説は,主に鉱化熱水の溶媒である“水”に含まれるHやOなどの軽元素の安定同位体比の検討に基づいて提唱されてきた.一方で,これらの軽元素の安定同位体には天水による希釈効果や水岩石反応・沸騰などによる同位体分別効果が大きく作用するため,鉱床を構成する金属元素そのものの起源を特定することは難しいことが指摘されている[3].そのため,PbやNdなどの重金属の同位体を用いることで,金属の起源を直接制約しようという試みがなされてきている.例えば,Hosono and Nakano [4] は菱刈金鉱床の鉱脈鉱石のPb-Sr同位体比を用いて,鉱床形成への深部地殻流体の寄与を示唆した.また,Fujinaga et al. [3] は日本の熱水性鉱床鉱石のPb同位体比を用いて,鉱床形成にスラブ起源流体が寄与している可能性を指摘している.こうした先行研究を踏まえ,本研究では,代表的な南薩型金鉱床である赤石鉱床の鉱石および周辺岩石について,硫化鉱物の主要な構成要素であるPbの同位体比分析を行い,熱水性金鉱床の成因(特に金属元素の起源)に関する検討を行った.さらに,その結果を菱刈鉱床と比較し,鹿児島県薩摩地域の金鉱床に共通する成因についても考察を行った.
分析結果を206Pb/204Pb, 207Pb/204Pb, 208Pb/204Pbの同位体組成空間で見ると,赤石鉱床の鉱石試料は,胚胎母岩を中心とするトレンド1, 2, 3という3方向のトレンドを示した.一方,菱刈鉱床の鉱石試料はトレンド1と2しか示さず,トレンド3に向かうものは無かった.トレンド1は胚胎母岩と基盤岩 (四万十帯砂岩) を結ぶもので,これは従来提唱されてきた鉱床生成メカニズム,すなわちマグマ水と天水(によって基盤岩から溶出された金属)による鉱床生成と整合的な結果である.一方トレンド2は,フィリピン海プレート由来のスラブ起源流体 [5] の組成に向かうことがわかった.これは,スラブ起源流体が鉱床形成に寄与している可能性を示唆しており,近年新しく提唱されている鉱床成因説 [3]を支持する結果と言える.赤石鉱床にのみ認められるトレンド3は,現在想定されるいずれの地球化学的端成分にも向かわず,未知の要素の寄与が示唆される.赤石鉱床の鉱石試料について,Au濃度とPb同位体比組成の関係に着目すると,トレンド1とトレンド2に向かう鉱石試料はいずれもAu濃度が高くなる傾向を示しており,基盤岩とスラブ起源流体がAuの濃集に何らかの影響を与えている可能性が示唆される.
[1] Izawa et al. (1990) J. Geochem. Explor. 36, 1-56.
[2] Hedenquist and Lowenstern (1994) Nature 370, 519-527.
[3] Fujinaga et al. (2013) GEOFLUID 3.
[4] Hosono and Nakano (2004) Earth Planet. Sci. Lett. 222, 61-69.
[5] Nakamura et al. (2008) Nat. Geosci. 1, 380-384.