日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT06] 顕生代生物多様性の変遷:絶滅と多様化

2016年5月26日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*磯崎 行雄(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、澤木 佑介(東京工業大学大学院 理工学研究科 地球惑星科学専攻)

15:30 〜 16:45

[BPT06-P02] エストニアの中部オルドビス系:Velise-F97コアの岩相および化学層序

*島塚 桃子1磯崎 行雄1石川 晃1Bauert Heikki2Poldvere Anne3鈴木 淳4石村 豊穂5 (1.東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系、2.タリン工科大学、3.エストニア地質調査所、4.産業総合研究所、5.茨城工業高等専門学校)

キーワード:オルドビス紀、バルチカ、コア

カンブリア爆発に引き続いてオルドビス紀におきた急速な生物多様化は、Great Ordovician Biodiversification Event (GOBE)と呼ばれており、特にオルドビス紀中期に種、属、および科のレベルでの多様化とともに個体サイズが大型化した。オルドビス紀中期において、生 物多様化の他に、海水準変化、ストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)の変動、無機炭素同位体比(δ13C) の正シフトなどの特異な海洋事件が、また大規模な火山噴火、隕石シャワーの落下、地磁気反転パタンなどの大規模な地質学的事件が起きているが、それらと多 様化との因果関係はよくわかっていない。そこで、本研究ではオルドビス紀中期に起きた環境変動と動物多様化の原因を追求することを目的とし、その記録を残 す地層試料を用いて詳細な岩相層序と化学層序の解明を試みた。用いた試料はエストニアにおいて掘削されたVelise –F97コアで、研磨スラブと薄片の観察・記載と、それらの全岩化学組成、無機炭素同位体比さらにストロンチウム同位体比を測定した。オルドビ ス系下部Billigenユニットの上位に累重する中部統は下位から順にVolkhovユニット、Kundaユニット、Aseriユニット、 LasnamagiユニットそしてUhakuユニットから構成される。BilligenユニットおよびVolkhovユニット下部は海緑石質な砂岩から構 成されるが、上位に向かって炭酸塩岩に岩相変化し、また海緑石もKundaユニット中位より上の層準では全く産しない。一方、下位層からは全く産しない ooliteは、Volkhov/Kundaユニット境界とAseriユニットおよびLasnamagiユニット下部に多産する。このような岩相の層序学 的変化は、これらの地層の堆積場が、陸棚縁辺の斜面上部から大きく浅化し、潮間帯に至ったことを記録している。Kundaユニットより上位は全て浅い場で 堆積したが、中部統の最上位をなすUhakuユニットの堆積場はやや深くなった。
主要元素および微量元素組成の分析から、炭酸塩岩中のSiO2量はKundaユニット最下部で急激に増加したのち、徐々に低下したことが示された。SiO2の 増加は砕屑物の流入量増加を反映するが、上述の堆積場の水深の変化とは同期しない。一方、炭酸塩岩のδ13CcarbはKundaユニット中部から Uhakuユニットにかけて約2パーミル正シフトし、Aseriユニットで極大値(1.43‰)を記録した。これはグローバルに対比され可能なMDICE と呼ばれる正シフトに対応する。Kundaユニット中部の堆積時から浅い海での基礎生産が活発化したが、Lasnamagiユニット下部から低下した。い ずれも、明瞭な変化はKundaユニットに記録されている。エストニアのオルドビス系の中では、本コア試料は例外的に厚いKundaユニットを含んでお り、様々な事変を高分解能で解析できる。この期間に焦点を当てた本研究の結果 、最初の堆積場の浅化と陸源砕屑物流入の増加事件(エピソード1)が起きた後で、堆積場の深化と炭素同位体比の増加が開始した(エピソード2)ことが、単 一セクション(コア)の連続試料で初めて明らかになった。その因果関係については同コアのより詳細な生層序学的検討との相互比較が必要である。砕屑物の急増は、おそらく近隣で起きた隕石シャワーの落下に関係している一方、動物多様化とは無関係と判断される。