日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT07] 地球生命史

2016年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 303 (3F)

コンビーナ:*本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)

09:30 〜 09:45

[BPT07-03] 北米および犬山地域の三畳系-ジュラ系の高熟成度堆積岩の有機物分析による古環境解析

*舘下 雄輝1沢田 健1池田 昌之2 (1.北海道大学・理学院、2.静岡大学・理学研究科)

キーワード:三畳紀-ジュラ紀境界、バイオマーカー、ケロジェン、熱化学分解分析、高熟成度堆積岩

古環境解析の手法の一つとして堆積岩中の有機物を用いた研究が広く行われているが、高い熟成を受けた古代堆積物において堆積時の環境・生物情報がほとんど失われていて、古環境復元は難しい。しかし、そのような高熟成度の古代堆積物から、わずかにでも残存している記録を読み取ることができれば、地球史レベルの環境変動・生態系進化などの知見がより深まるであろう。古代堆積物において、微量の遊離態成分(ビチュメン)からバイオマーカー分子を見出して研究がなされている。また、遊離態成分は堆積岩中に含まれる有機物のわずか数%であるが、95%以上を占める不溶性高分子有機物のケロジェンも有用な情報源である。しかし、その成因や化学構造は未だよく分かっておらず、分析手法も確立段階であるといえる。本研究では北米および犬山地域の三畳系-ジュラ系の高熟成度堆積岩中の遊離態成分とケロジェンの分析を行い、古環境解析を試みた。
本研究では、北米の三畳紀-ジュラ紀境界時の湖成層黒色頁岩および赤色砂岩と、犬山地域の中期三畳紀AnisianおよびT-OAE2時にパンサラッサの遠洋域で堆積した付加体堆積物(黒色頁岩・黒色チャート)を用いた。各試料を粉砕後有機溶媒で抽出を行い、遊離態成分は、シリカゲルクロマトグラフィーによりカラム分けを行った後、GC-MS分析を行った。抽出残渣からは、HCl・HF処理によりケロジェンを分離し、蛍光顕微鏡観察、熱分解GC-MS分析、熱化学分解GC-MS分析を行った。
北米および犬山試料ともに石油生成帯に至るまでに高い熟成度であることが確認され、遊離態のバイオマーカー分子はn-アルカン等の石油性炭化水素に変化し、生体に直接由来するようなデータはほとんど得られなかった。しかし、北米の試料からは、湖生の藻類由来であると考えられるβ-カロタンが検出され、堆積年代毎のβ-カロタン量の違いから、当時の湖における堆積環境の変動が示唆される。犬山地域の試料からはシアノバクテリアに由来すると考えられる2-メチルホパンが検出された。シアノバクテリアは海洋における生態系の荒廃時に繁茂すると考えられており、当時のパンサラッサ遠洋域での環境擾乱が示唆される。ケロジェンの蛍光顕微鏡観察では、通常弱い蛍光を示すとされている海生藻類由来の不定形物質が蛍光を示さなかった。また、犬山のケロジェンを熱分解GC-MS分析を行ったところ、主生成物がPAH化合物であった。以上から、熟成と共に芳香環化が進行していることが示される。北米の試料では、n-アルカン/n-アルケンが主成分として検出された。興味深いことに、Hartford盆地East Berlin層 の試料において、フェノール類が主成分として検出された。陸上植物起源有機物の関与が大きいことが示唆され、環境変化による陸上植物起源有機物の大量流入・堆積の可能性が推察される。