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[BPT07-04] 白亜紀中期セノマニアン期の浮遊性有孔虫(Muricohedbergella delrioensis)の成長と古海洋環境変動
キーワード:白亜紀、浮遊性有孔虫、形態進化
白亜紀,特にその中期は典型的な温室地球時代として知られており,氷質地球である現代とは異なる地球システムにおける生命進化を議論する格好の対象となってきた.温室地球時代には,多くの超温暖化イベントが起きたことが知られており,白亜紀においては無酸素水塊の発達を伴う海洋無酸素事変として知られている.多くの海洋無酸素事変は浮遊性の原生生物の20〜70%程度の分類群が滅びる程の絶滅を伴うイベントとして知られているが,海洋無酸素事変にまでは至らなかった小規模なイベントも幾つか知られている(Leckie et al., 2002).その一つがMid-Cenomanian Event(MCE)であり,このイベントは,セノマニアン期/チューロニアン期境界のOceanic Anoxic Event 2の前兆イベントであったと考えられている.しかし,このイベントにおける地球表層環境変動と生物の応答の詳細については未だに明らかになっていない.
そこで,本研究では,白亜紀セノマニアン期中期に発生したMCE時における浮遊性有孔虫,Muricohedbergella delrioensisの殻形態の経時変化を解析した.対象とした試料は国際深海掘削計画第207次航海において,赤道大西洋のDemerara Riseより得られたものである.本地域においては,セノマニアン期のM. delrioensisの殻の炭素・酸素同位体比がすでに測定されており(Moriya et al., 2007),本研究で得られた形態変化と同位体比変動との対比を試みた.サイズの層位学的分布の解析からは,MCE周辺を境として,より上位(若い年代)ではサイズが小型化していることが示された.また,このサイズの小型化に伴い,1個体の総チャンバー数も減少しており,チャンバー数が減ることで小型化する,逆に増えることで大型化する関係にあることが明らかになった.現生の浮遊性有孔虫の飼育実験からは,採餌頻度の上昇にともない性成熟時のサイズが大きくなり,かつ形成するチャンバー数も多くなることが知られている(Bé et al., 1981).さらに,採餌頻度の高い個体は性成熟に到達する日数も短くなることが明らかになっている(Bé et al., 1981).このことから,MCE以前の集団は,より採餌頻度が高く,MCE以降に採餌頻度が減少した,すなわち貧栄養な状態に変化したことが推測される.サイズとチャンバー数の相対成長解析からは,セノマニアン期中期のM. delrioensisの形態進化は幼生成熟/過形成の関係にあるように見受けられるが,おそらくは,採餌頻度に起因する幼形成熟/促進的な関係にあると推測される.また,本研究ではM. delrioensisの右巻き/左巻き比についても解析を行ったところ,巻の方向と酸素同位体比との間に有意な相関が得られた.本研究では,左巻きの比率が高いほど,酸素同位体比が高く,すなわち低温になることが示された.この結果は,Desmares et al.(2016)で得られた結果と同じであり,M. delrioensisの巻方向が新しい古水温プロキシとして利用できる可能性を追認した.現生種(例えばNeogloboquadrina pachyderma)における巻の方向の異なる形態群は,異なる遺伝型,あるいは種に区分できることが明らかになっており(Darling et al., 2006),M. delrioensisに見られた巻方向の異なる形態群も遺伝的に異なる集団である可能性がある.
Bé et al., 1981. Jour. Marine Biol. Asso. UK, v. 61, p. 257-277.
Darling et al., 2006. Paleoceanography, v. 21.
Desmares et al., 2016. Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., v. 445, p. 8-17.
Leckie et al., 2002. Paleoceanography, v. 17, 10.1029/2001PA000623.
Moriya et al., 2007. Geology, v. 35, p. 615-618.
そこで,本研究では,白亜紀セノマニアン期中期に発生したMCE時における浮遊性有孔虫,Muricohedbergella delrioensisの殻形態の経時変化を解析した.対象とした試料は国際深海掘削計画第207次航海において,赤道大西洋のDemerara Riseより得られたものである.本地域においては,セノマニアン期のM. delrioensisの殻の炭素・酸素同位体比がすでに測定されており(Moriya et al., 2007),本研究で得られた形態変化と同位体比変動との対比を試みた.サイズの層位学的分布の解析からは,MCE周辺を境として,より上位(若い年代)ではサイズが小型化していることが示された.また,このサイズの小型化に伴い,1個体の総チャンバー数も減少しており,チャンバー数が減ることで小型化する,逆に増えることで大型化する関係にあることが明らかになった.現生の浮遊性有孔虫の飼育実験からは,採餌頻度の上昇にともない性成熟時のサイズが大きくなり,かつ形成するチャンバー数も多くなることが知られている(Bé et al., 1981).さらに,採餌頻度の高い個体は性成熟に到達する日数も短くなることが明らかになっている(Bé et al., 1981).このことから,MCE以前の集団は,より採餌頻度が高く,MCE以降に採餌頻度が減少した,すなわち貧栄養な状態に変化したことが推測される.サイズとチャンバー数の相対成長解析からは,セノマニアン期中期のM. delrioensisの形態進化は幼生成熟/過形成の関係にあるように見受けられるが,おそらくは,採餌頻度に起因する幼形成熟/促進的な関係にあると推測される.また,本研究ではM. delrioensisの右巻き/左巻き比についても解析を行ったところ,巻の方向と酸素同位体比との間に有意な相関が得られた.本研究では,左巻きの比率が高いほど,酸素同位体比が高く,すなわち低温になることが示された.この結果は,Desmares et al.(2016)で得られた結果と同じであり,M. delrioensisの巻方向が新しい古水温プロキシとして利用できる可能性を追認した.現生種(例えばNeogloboquadrina pachyderma)における巻の方向の異なる形態群は,異なる遺伝型,あるいは種に区分できることが明らかになっており(Darling et al., 2006),M. delrioensisに見られた巻方向の異なる形態群も遺伝的に異なる集団である可能性がある.
Bé et al., 1981. Jour. Marine Biol. Asso. UK, v. 61, p. 257-277.
Darling et al., 2006. Paleoceanography, v. 21.
Desmares et al., 2016. Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., v. 445, p. 8-17.
Leckie et al., 2002. Paleoceanography, v. 17, 10.1029/2001PA000623.
Moriya et al., 2007. Geology, v. 35, p. 615-618.