日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT07] 地球生命史

2016年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 303 (3F)

コンビーナ:*本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)

10:00 〜 10:15

[BPT07-05] 中期白亜紀海洋無酸素事変OAE2における渦鞭毛藻による赤潮発生の検討

*安藤 卓人1沢田 健1高嶋 礼詩2西 弘嗣2 (1.北海道大学・理学院、2.東北大学・総合博物館)

キーワード:白亜紀、渦鞭毛藻、赤潮、海洋無酸素事変、アクリターク

富栄養化などに伴った海洋植物プランクトンによる赤潮(red-tide)は水産資源へ甚大な影響を与えるために注目されてきた。近年の急激な温暖化に伴い赤潮が発生する懸念がなされていると同時に,現在でも主要な赤潮種である渦鞭毛藻の過去の温暖化に伴った挙動も注目されている。急激な温暖化が報告されているPETM期には渦鞭毛藻Apectodiniumが大量発生したことが報告されているが(Sluijs et al., 2007),白亜紀最温暖期に相当する海洋無酸素事変(OAE)2期についてはむしろ渦鞭毛藻シストの減少が報告されている(Pearce et al., 2009)。このOAE2期には炭素同位体比層序とTEX86などの古水温指標から少なくとも2回の温暖化と1回の寒冷化で特徴づけられることが分かってきており,環境変動に対する基礎生産者の応答に関して詳細な検討が可能になってきた。本研究では,渦鞭毛藻バイオマーカー(三芳香環ジノステロイド)と極微小な渦鞭毛藻様のアクリタークに着目して,北海道蝦夷層群佐久層と南東フランス・ボコンチアン堆積盆のOAE2層準堆積岩で詳細な比較を行なった。
北海道蝦夷層群と南東フランス・ボコンチアン堆積盆とOAE2層準試料を炭素同位体層序による詳細な対比によって比較した結果,両試料において渦鞭毛藻バイオマーカー指標(TADS)の値が炭素同位体Phaseの1st build-up開始期とTroughから2nd build-up開始期の間で増加した。これらの時期はTEX86などの古水温指標から推測される温暖化の時期とほぼ対応しているため,全球的な温暖化に対応して北太平洋とテチス海の離れた二地点で基礎生産への渦鞭毛藻の寄与が増大したと推察される。特にOAE 2期は温暖化に伴った水塊の「密度差崩壊」が示されているため(Huber et al., 1999),海洋中層や底層からの栄養塩供給によって渦鞭毛藻が好む富栄養な海洋表層環境が全球規模で広がった可能性がある。また, TADSが高い値を示す試料では北海道と南東フランスの試料ともに突起物を持った直径20µm未満のアクリターク(Micrhystridium)が多産した。これらのアクリタークが渦鞭毛藻に起源をもつかは分かっていないが,先行研究ではこれらを濃集した画分において渦鞭毛藻バイオマーカーが多量に検出されている(Talyzina et al., 2000)。これらは渦鞭毛藻シストでも特に独立栄養型のGonyaulacoidと形状が類似しており,さらにそれらよりも小型であることから,このアクリタークを形成した種は現在の赤潮種のようにr戦略をとっていたと推測できる。もしかすると,OAE2期の温暖化のタイミングで富栄養化に伴った小型の渦鞭毛藻による赤潮の頻度が高まった可能性があり,その結果として効率的に有機物が海底に埋積し,海洋の無酸素化が促進されたかもしれない。