日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT07] 地球生命史

2016年5月25日(水) 10:45 〜 12:15 303 (3F)

コンビーナ:*本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)

11:30 〜 11:45

[BPT07-10] 北海道の中新統から産出したAllodesmus (哺乳綱:食肉目)の系統的位置づけと体骨格の意義

*主森 亘1澤村 寛2佐藤 たまき3甲能 直樹1,4 (1.筑波大学大学院 生命環境科学研究科、2.足寄動物化石博物館、3.東京学芸大学 自然科学系 宇宙地球科学分野、4.国立科学物館 地学研究部)

キーワード:鰭脚類、Allodesmus、系統、体骨格

Allodesmusは半水生の食肉目である鰭脚類(アザラシ・アシカ・セイウチの仲間)であり,後期中新世までに絶滅してしまったデスマトフォカ科に属する.また,Allodesmusは中期中新世に出現し,その分布は北太平洋沿岸(日本,アメリカ,メキシコ)に限定されている.先行研究によれば,主に頭蓋形態による系統解析に基づいて,Allodesmus属は少なくとも5種を含み,“Basal”,“Broad head”,“Long head”の3つのサブグループに分かれることが示唆されている.しかしながら,これまでAllodesmus属内の系統解析は一例のみとなっており,最新のデータセットを用いた研究の更新が必要とされている.また,Allodesmus属の体骨格についてはとりわけ標本が乏しく,これまで全身骨格の報告はカリフォルニアからのA. kernensisの一例のみとなっている.
本研究では,1991年に北海道十勝郡浦幌町に分布する中部中新統オコッペ沢層から発見された,足寄動物化石博物館に収蔵されているAMP25を用いて,主に頭蓋形質を用いた系統推定と体骨格に基づいた比較形態学的検討を行った.AMP25は珪質ノジュール中に包含されていたが,頭蓋の特徴からAllodesmus sp.であると同定された.その後,長期にわたった剖出の結果,AMP25は83個という多くの骨格要素を含む標本であることが明らかとなった.これらを用いて,AMP25の系統上の位置づけを明らかにするため,系統解析ソフトPAUP4.0と形質解析ソフトMesqueite 3.03を用いて,97の形態データと15の分類群を扱い,初期のイタチ類であるPotamotherium,初期の鰭脚類であるEnaliarctosPteronarctosを外群として,AMP25とAllodesmusuの既知の5種に現生の3科(アザラシ科,アシカ科,セイウチ科)を加えて系統解析を行った.
解析の結果,デスマトフォカ科は従来通り単系統を示した.また,Allodesmus属内において先行研究で示唆された“Long head”subgroupも支持された.しかしながら,“Broad head”subgroupは堅固な共有派生形質が認められず,支持されないという結果となった.AMP25については,Lond head subgroupの共有派生形質を持たず,またAllodesmus packardi及びA. naoraiと共に多分岐となった.一方,AMP25は前上眼窩突起が前方に位置しており,他のAllodesmusにはみられない形質状態を示していた.以上のことから,AMP25はこれまでに知られていない種である可能性が高い.また,1例目の全身骨格が報告されているA. kernensisと体骨格の形態学的な比較を行ったところ,後肢の形態に顕著な相違が認められた.特に,踵骨については骨のプロポーションや腓骨結節の発達の程度など,多くの点で著しく異なっていた.したがって,鰭脚類において従来の系統解析では扱われることの少ない機能と関わりを持つ体骨格の形態にも,運動機能としてだけではなく系統関係を反映した情報が十分に含まれていることが示唆された.