13:45 〜 14:00
[BPT08-01] 化学合成生態系で発達するマイクロバイアライト
★招待講演
キーワード：マイクロバイアライト、化学合成生態系
マイクロバイアライトは、底生微生物の活動と環境要因の相互作用によって形成される堆積物で（1）、肉眼で確認できる初期生命の痕跡である。多くのマイクロバイアライトは主に炭酸塩から構成されるが、シリカ、リン酸塩、鉄・マンガン酸化物、硫化鉄（2）、水酸化マグネシウム（3）を主成分とするものもある。これまでにマイクロバイアライトの成因は、陸上の河川や湖、温泉、そして浅海の堆積場を中心に調べられ、そのほとんどでシアノバクテリアや藻類などの光合成を行う微生物の関与することが知られている（2）。しかし、化学合成生態系が広がる暗黒環境でもマイクロバイアライトが発達することが知られている。そのような環境へのアクセスは容易でなく、報告例は限られるとともに記載的な内容にとどまっている。本発表では、現在までに知られている化学合成生態系のマイクロバイアライトの事例を紹介するとともに、2013年に新たに発見された南部マリアナしんかい湧水域のマイクロバイアライトの特徴を報告する。
深海のメタン冷湧水サイト（4, 5）や、廃棄物埋立地の排水パイプライン（6, 7）で沈殿する炭酸塩の中にはマイクロバイアライト組織を発達させるものがある。炭酸塩やバイオマーカーの炭素同位体比から、これらの試料では、メタン生成もしくはメタン酸化を行う微生物の存在が示唆され、組織の形成に寄与していると推測されている。また、熱水湧出口周辺の硫化鉄沈殿物中からもマイクロバイアライトの発達が報告されており（8, 9, 10）、分布する化学合成微生物が組織の形成に関与すると推測されている。しんかい湧水域で発見されたチムニーは、水酸化マグネシウムと炭酸カルシウムから構成され、大西洋中央海嶺のLost City 熱水域と同様に低温の蛇紋岩反応に関連したアルカリ性流体から沈殿していると考えられる。チムニー内部では、水酸化マグネシウムから構成されるマイクロバイアライトが局所的に分布することを確認した。
以上の化学合成生態系で認められるマイクロバイアライトは、cmからmmスケールの限られた範囲で発達し、中には二枚貝やチューブワーム等とともに産するものもある。一方、表層の光合成圏のマイクロバイアライトは最大で数kmスケールで発達する（2）。今後の研究で化学合成生態系のマイクロバイアライトの成因や特性が明らかにされれば、太古のマイクロバイアライトからより詳しい初期微生物生態系の姿を復元することが可能になると期待される。
謝辞：しんかい湧水域の科学調査においては、「よこすか」船長、乗組員およびしんかい6500運航チーム、海洋研究開発機構の関係者の皆様のご支援のもと執り行われた。また、小原泰彦博士およびYK13−08・YK14−13・YK15−11乗船研究者にはサンプルの提供および調査協力をいただいた。ここに感謝の意を表する。
引用文献：[1] Brune and Moore (1987) Palaios 2, 241-245. [2] Riding (2011) Encyclopedia of Geobiology pp. 635-654. [3] Nothdurft et al. (2005) Geology 33, 169-172. [4] Greinert et al. (2002) International Journal of Earth Sciences 91, 698-711. [5]Reitner et al. (2005) Facies 51, 66-79. [6] Maliva et al. (2000) Geology 28, 931-934. [7] Feng & Chen (2015) Environmental Earth Sciences 74, 4839-4851. [8] Georgieva et al. (2015) Geobiology 13, 152-169. [9] Li and Kusky (2007) Gondwana Research 12 84-100.
深海のメタン冷湧水サイト（4, 5）や、廃棄物埋立地の排水パイプライン（6, 7）で沈殿する炭酸塩の中にはマイクロバイアライト組織を発達させるものがある。炭酸塩やバイオマーカーの炭素同位体比から、これらの試料では、メタン生成もしくはメタン酸化を行う微生物の存在が示唆され、組織の形成に寄与していると推測されている。また、熱水湧出口周辺の硫化鉄沈殿物中からもマイクロバイアライトの発達が報告されており（8, 9, 10）、分布する化学合成微生物が組織の形成に関与すると推測されている。しんかい湧水域で発見されたチムニーは、水酸化マグネシウムと炭酸カルシウムから構成され、大西洋中央海嶺のLost City 熱水域と同様に低温の蛇紋岩反応に関連したアルカリ性流体から沈殿していると考えられる。チムニー内部では、水酸化マグネシウムから構成されるマイクロバイアライトが局所的に分布することを確認した。
以上の化学合成生態系で認められるマイクロバイアライトは、cmからmmスケールの限られた範囲で発達し、中には二枚貝やチューブワーム等とともに産するものもある。一方、表層の光合成圏のマイクロバイアライトは最大で数kmスケールで発達する（2）。今後の研究で化学合成生態系のマイクロバイアライトの成因や特性が明らかにされれば、太古のマイクロバイアライトからより詳しい初期微生物生態系の姿を復元することが可能になると期待される。
謝辞：しんかい湧水域の科学調査においては、「よこすか」船長、乗組員およびしんかい6500運航チーム、海洋研究開発機構の関係者の皆様のご支援のもと執り行われた。また、小原泰彦博士およびYK13−08・YK14−13・YK15−11乗船研究者にはサンプルの提供および調査協力をいただいた。ここに感謝の意を表する。
引用文献：[1] Brune and Moore (1987) Palaios 2, 241-245. [2] Riding (2011) Encyclopedia of Geobiology pp. 635-654. [3] Nothdurft et al. (2005) Geology 33, 169-172. [4] Greinert et al. (2002) International Journal of Earth Sciences 91, 698-711. [5]Reitner et al. (2005) Facies 51, 66-79. [6] Maliva et al. (2000) Geology 28, 931-934. [7] Feng & Chen (2015) Environmental Earth Sciences 74, 4839-4851. [8] Georgieva et al. (2015) Geobiology 13, 152-169. [9] Li and Kusky (2007) Gondwana Research 12 84-100.