日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT08] 化学合成生態系の進化をめぐって

2016年5月26日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、延原 尊美(静岡大学教育学部理科教育講座地学教室)、間嶋 隆一(国立大学法人横浜国立大学教育人間科学部)

15:30 〜 16:45

[BPT08-P05] 南部マリアナ前弧しんかい湧水域における生物群集の炭素、窒素、硫黄
安定同位体組成による栄養源の評価

*大西 雄二1山中 寿朗1渡部 裕美2小原 泰彦2,3 (1.岡山大学、2.海洋研究開発機構、3.海上保安庁海洋情報部)

キーワード:同位体組成

2010年に南部マリアナ前弧の水深約5600 mの海溝陸側斜面にシロウリガイを主とする化学合成生物群集が発見され、その一帯はShinkai Seep Field (SSF)と名付けられた。SSFは、これまでに化学合成生物群集が知られている熱水噴出孔やメタン湧出域とは全く異なるテクトニックな背景を持っており、マントルかんらん岩の蛇紋岩化反応に伴って発生するメタンによって微生物硫酸還元が行われ、そこで発生する硫化水素を利用して硫黄酸化細菌が一次生産を行っていると考えられている。しかし、実際にこの生物群集を支えているエネルギー源や栄養源に関する地球化学的研究は行われていなかった。そこで、本研究ではSSFにおける生物群集の栄養源をC,N,S安定同位体組成を用いて検討することを目的とした。
試料はJAMSTECの有人潜水調査船「しんかい6500」の潜航調査によってYK13-08航海で採取されたシロウリガイ(Calyptogena mariana)の他にシロウリガイコロニー周辺で採取された様々な生物と懸濁粒子、コロニー直下の堆積物を分析に用いた。生物試料は軟組織のC、N、S同位体組成を、懸濁物試料はC,N同位体を、堆積物は全有機炭素(TOC)、全窒素(TN)、酸揮発性硫化物(AVS)濃度およびそれらの同位体組成の測定を行った。
堆積物中TOC、AVS濃度は深度の増加とともに増加し、それらの同位体比は減少する傾向が見られた。これはコロニー直下の堆積物中において、硫酸還元細菌の活動によって生じる硫化水素を用いた一次生産が行われている事を示している。懸濁粒子の同位体組成は植物プランクトンに見られる値の範囲内であることから、海洋表層で光合成によって生産された有機物であると考えられる。
シロウリガイ軟組織のδ13C値は、以前に報告されている値とほぼ等しく、エラ内に硫黄酸化細菌を共生させているシロウリガイに典型的な値の範囲である。δ34S値は堆積物中のAVSが持つδ34S値とほぼ等しい結果であった。このことからシロウリガイの生育を支えるエネルギー源が堆積物中の硫酸還元細菌の活動に由来する硫化水素であることを示している。また、多毛類やヨコエビ、イソギンチャクは懸濁粒子と堆積有機物との中間的な同位体組成を持ち、光合成、化学合成両方に由来する有機物を摂食していると考えられる。ヒゲムシはそれらとは明らかに異なる同位体組成を持っており、シロウリガイとは異なる炭素固定回路を持つ硫黄酸化細菌やメタン酸化細菌に栄養源を依存している可能性が考えられる。