日本地球惑星科学連合2016年大会

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[G-02] 災害を乗り越えるための「総合的防災教育」

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*中井 仁(小淵沢総合研究施設)、宮嶋 敏(埼玉県立深谷第一高等学校)、根本 泰雄(桜美林大学自然科学系)

17:15 〜 18:30

[G02-P06] 災害初動期における空撮を用いた情報収集手法の開発

*成田 徳雄1布施 明2榊原 庸貴3 (1.気仙沼市立病院、2.日本医科大学、3.株式会社パスコ)

キーワード:災害医療、情報、初動期、地理情報システム、広域災害医療情報システム

1,はじめに
大規模災害において災害初動期に被災状況の概要の把握は重要である。災害医療に関する情報は広域災害救急医療情報システム(Emergency Medical Information System;以下、EMIS)に集積されるが、これを補完し、情報通信システムが壊滅した孤立地域でも利用可能な災害医療情報収集手法を開発したので報告する。
2,目的
EMISを補完し、情報通信システムが壊滅し孤立した地域でも利用可能であり、また災害初動期における医療需要を見積もるための客観的データとして、記録および運用を可能とする災害情報収集手法の構築を目的とする。
3,方法
災害時孤立した地域におけるヘリ空撮による情報収集システムであり、以下の3つの要素で成り立っている。
1)特殊空撮システム(PALS:携帯型斜め写真撮影システム (株)PASCO社製)
空撮撮影システムは撮影と同時に撮影位置、写真中心位置、撮影時の向きの自動計測が可能である。その情報を地理情報システム(GIS : Geographic Information System)として活用でき、地理的位置を手がかりに、位置に関する情報データを総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能となる。記録されている位置情報は自衛隊で利用されているUTMコードで表示され、10m単位で位置特定が可能となる。画像情報は最短1.5秒聞隔自動連続撮影の静止画とした。
2.災害時施設状況伝達横断幕(以下、SOSシート)
SOSシートはテント生地(厚さ0.35mm)を用い、視認性に配慮し下地は濃オレンジで数字は白とした。数字記載は、7セグメントディスプレイ方式を採用、表裏(濃オレンジ、白)のセグメントを翻転することで、0-9の数字記載が可能となる。記載項目は報告日、収容者数および傷病者数とし、他にEMIS緊急時入力項目である施設倒壊状況、ライフライン(水・電気・ガス)の状況・必要物資の標示にはピクトグラムを使用した。シート開発初期段階においては、施設トリアージ基準に従い、緑・黄・赤3色のシート作成を行ったが、ピクトグラムを表示することで、施設被災状況の把握が可能となり、1色のみの仕様とした。
3.ヘリコプター
使用する回転翼に特段の制限はなく、窓あるいはドアを開けながら飛行できるヘリコプターであれば使用可能である。ヘリ機体への空撮システムの固定も不要である。
4,結果
今回開発した災害情報収集手法の有効性を検証するために、実際にヘリコプターに特殊空撮システムを搭載して、掲示したSOSシートの撮影を行った。
短時間で網羅的な調査が可能であり、空撮手技においても比較的短時間で操作取得が可能であった。SOSシートは上空からの視認性も高く、位置の特定も可能であった。シート固定の安定性を確認できた。災害拠点病院だけでなく、中小医療機関や介護施設での運用も可能である(図)。さらには、災害時に避難所指定となる学校施設でも利用可能であり、平時における避難所運営訓練や地域全体の防災・減災力向上のアイテムとしての発展も期待できる。
5、考察一今後の課題-
今後、システムを発展させていくために取り組まなければならない課題は以下のごとくである。
1)必要な災害情報の事前準備
発災前に、起こり得る地震・津波等の想定を基に発災後の被災想定を検討することが必要となる。震源地、震度、浸水域、火災状況、道路閉塞状況、ライフライン(含通信インフラ)被災状況、建物損壊状況、負傷者数、避難者数、帰宅困難者数、災害要配慮者数、避難所、一次滞在施設、毛布、トイレ、水・食料支援想定、避難所衛生状況等、さまざまな情報がこれにあたる。これらの想定情報を精査したうえで、医療需要の見積もりをあらかじめ想定しておくことが必要不可欠である。
2)SOSシートの啓発・普及
本システムは”自助・共助“の部分が必須であり、この部分が機能することで情報量は飛躍的に増加する。地域防災・減災システムとしての、地域住民に対する啓発・普及活動は重要な課題である。
3)亜急性期における情報収集システムへのシームレスな連携
本システムの主眼は超急性期の災害対応に必要な被災地の俯瞰的情報の収集である。亜急性期に移行する過程で、関係各機関でより詳細な情報が必要となる。情報収集が進んでいく中で、それぞれにシームレスに情報が流れる仕組みに配慮する必要がある。
.6,結論
災害初動期から被害想定に基づいて行う新しい情報収集手法を考案した。特殊空撮システム、ヘリコプター、SOSシートからなるこの新しい手法で、早期に被災地全体の医療状況を俯瞰的に把握することが可能となる。通信インフラが機能していない時でも、被災者が掲示するSOSシートを撮影し、被災地の医療状況の全体像を把握しできる点で、既存のシステムと相補的である。当手法の実施機関、情報共有方法、関係各機関との連接などの課題があり、これらの課題解決を図ることにより、被害想定を発災時に適時に修正するシステムとして有用となると考えられた。