日本地球惑星科学連合2016年大会

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[G-03] 地球惑星科学のアウトリーチ

2016年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 101A (1F)

コンビーナ:*植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)、長谷川 直子(お茶の水女子大学)、大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)、座長:小森 次郎(帝京平成大学)

09:15 〜 09:30

[G03-02] ふるさと講座“オンネニクルの森を歩こう”実施報告

*重野 聖之1渡辺 和明2石渡 一人3七山 太2 (1.明治コンサルタント株式会社、2.(独)産業技術総合研究所 地質調査総合センター、3.別海町郷土資料館)

キーワード:野付半島、オンネニクルの森、分岐砂嘴、別海町

2015年秋に北海道東部根室海峡沿岸の野付半島周辺の科研費調査実施にあわせて,野付半島ネイチャークラブ主催の擦文時代の生活跡など遺跡からみた地形・地質をテーマに「オンニクルの森を歩こう」というジオツアーについて実施状況を報告する。
1. 野付半島の地形・地質と擦文時代の生活跡
野付半島は知床半島と根室半島の中間に位置し,沿岸流により運ばれた砂礫が長年にわたって堆積して作られた全長約28 km の本邦最大の分岐砂嘴(バリアー)である。野付半島は1962年12月に野付風連道立自然公園に指定されており、半島の中央部にあるオンネニクルには樹齢数100 年の森林が存在し,ここでは,今から1000 年程前の擦文時代の竪穴式住居跡やアイヌ人によって築かれたチャシ跡が数多く発見されている.
2.オンネニクルの森ジオツアーの実施内容
10月18日ツアー当日は朝から快晴で朝10時に野付半島ネイチャーセンターのエントランスに集合した.最初に案内者側の自己紹介後,今回の私たち科研費研究の目的と,野付半島の地形概説を七山が行った.その後,オンネニクル付近までネイチャーセンターの車に分乗して移動した.
①野付半島を形作る礫浜の構造
オニンクルの森に入る前に現世の前浜をシャベルで掘って,海浜堆積物の特徴を確認し,「礫浜の礫は何故お皿のように平べったいのか?」について解説を行なった.また,この地域では現在著しい海岸侵食が起こっており,コンクリートのテトラポットで固められた現在の海岸線についても説明した.
②現世のウオッシュオーバー堆積物
前浜からオンネニクルの森に移動する途中の後浜部分に特異な現象が見られた.今秋の10 月8 日の台風23 号の波浪によって,舌状の形状を持つ50cm の層厚の砂礫体(ウオッシュオーバー堆積物)が観察できた.ここで重野は,津波堆積物と台風の越波によって生じたウオッシュオーバー堆積物の堆積構造や分布規模の違いについて解説した.
③遺跡と地形・地質
オニンクルの森に入ってからは,石渡の案内で内径17 m の円形のイドチ岬チャシ跡(アイヌ文化期に作られたもので,聖域,送場,砦跡・見張り場などの説がある),野付1.2 遺跡(擦文時代の竪穴式住居跡)を見学した.この途中の2地点において,検土杖を使用して江戸時代に噴火した道南の樽前火山(1739 年)起源や駒ケ岳火山(1694 年)起源等の火山灰を観察した.また,オンネニクルの森の地盤に海浜礫の存在を確認してもらった.これは過去波打ち際、または海であった場所に砂嘴が形成れ,陸上になった後に人が住みついた可能性について解説した.
④道路脇に露出した露頭
昼食後,オンネクルの森を出て,道路脇に露出した露頭を観察し,オンネニクルの森は1000 年以上の間,沈水した形跡が無いことを参加者に確認していただいた.特に江戸時代の火山灰の下には30 cm 以上の厚さの土壌が存在し,最下位に現在の海岸で見たものと同じ海浜礫が露出していた.「オンネニクルの地盤は,検土杖で掘ってみても堅く古そうに見える」.「年1.5 cm の速さで沈降しているのに,何故オンネニクルの森は水没して浸食されなかったのか?」などこの地域の成り立ちについて返答に困る質問が参加者からささやかれていたが,私たちは「これに関する答えは来年あらためて明らかにする・・・・」とだけ答え,その場を後にした.
⑤オプショナルツアー
ツアー終了後に野付半島ネイチャーセンターに戻り,時間の許す希望者に,調査手法の実演として,ネイチャーセンターから荒涼とした景観のトドワラまで向かう馬車道付近にて,検土杖掘削と各地層の高さを計測するために用いるファーストスタティックGPS 測量による高精度標高測定について,渡辺が中心となって実演して見せた.
3.オンネニクルの森ジオツアー参加者評価
参加者より,オンネニクルの森は国有林なので,無許可で立ち入ることができないためか,遺跡・地形・地質の見学のほか,枯れ木の景観などを見ながら程よい距離を歩くことから,総じて大変好評であった.来年度以降も,現地調査にあわせて,別海町や標津町民対応のジオツアーや講演会を,アウトリーチ活動の一環として時間の許す限り実施したいと考えている.