日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-03] 地球惑星科学のアウトリーチ

2016年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 101A (1F)

コンビーナ:*植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)、長谷川 直子(お茶の水女子大学)、大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)、座長:大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)

14:30 〜 14:45

[G03-16] 分譲マンションにおける長期的防災対策の実践

*岸 優美子1大木 聖子1 (1.慶應義塾大学環境情報学部)

キーワード:地震、防災、災害、コミュニティ

2011年に発生した東日本大震災では、建物の大きな損壊は免れたものの、インフラの破損などにより生活継続に支障をきたしたマンションが多数見受けられた。コミュニティ内での自助意識の醸成、自主防災組織の活動活発化など、大地震の被害を乗り越える上でマンション住民に求められる備えはすでに多数指摘されている。しかし、具体的にどのような働きかけが住民の防災意識を高め、行動を促すのかについては明らかになっていない。
本研究では分譲マンションに焦点を当て、藤沢市に実在するマンションをフィールドに半年に渡る実践を行った。月1回の防災に関するおたよりの配布、防災フェアの開催などの取り組みを通して、住民の防災意識や行動にどのような変化が見られるのかについて調査した。3回にわたるアンケート調査では、a.水と食料の備蓄、b.持ち出し袋の準備、c.重い家具の固定、d.家具の配置の配慮、e.家族と緊急時連絡方法を決めること、f.自宅の耐震補強、g.地震保険への加入の7項目において、それぞれ「対策には効果があると思うか」、「今後一ヶ月の間に新たに備えようと思うものはあるか」(行動意図)、「実際に備えたか」(行動)について回答を得た。
今回の実践では、特徴的な結果が2点得られた。ひとつは、リスクを認識し、リスクに対する対策の効果も認識し、具体的な対策方法を知り、行動意図が生まれてもなお実際の行動には結びつかないという事例である。特に、e.家族と緊急時連絡方法を決めることに関しては、行動意図を持っていても行動に至らないケースが特に多いことがわかった。a.水と食料の備蓄、c.重い家具の固定など、購入・設置などの行動コストの高いものが対策済みである世帯でも、e.家族と緊急時連絡方法を決めることについて未対策であったり、行動意図があったにもかかわらず行動に結びついていなかったりする点は、経済的コストや行動コストのかからない家族との話し合いはすぐに実行してもらえるだろう、という発表者の予想と異なっていた。
もうひとつは、リスク認知をしても必ずしも行動意図へは結びつかないことが明らかとなった大木ら(2015)や永松ら(2015)の先行研究と比較して、行動意図が上昇した人が多く、さらに実際に行動した人も複数見受けられた点である。例えば防災フェア直後に実施したアンケートでは、今後一ヶ月の間に家具の配置の配慮をしようと考えた人は、全体の57.1%にものぼった。これには講演時に実際に家具転倒の映像を見せたことなど、コンテンツの提供方法やコミュニケーションの方式に留意したことが起因していると推察される。
本発表では、マンション防災を進める上で指標となる先行事例について併せて述べるとともに、今後の展望として、どのような観点がマンション防災に求められるのかについて言及する。
参考文献:
大木聖子・飯沼貴朗・尾崎拓・中谷内一也(2015) 「『首都直下型4年内70%』報道で人々は備えたのか」
永松冬青・大木聖子・飯沼貴朗・大伴季央・広田すみれ(2015)「地震動予測地図の確率はどう認知されているのか」