日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-03] 地球惑星科学のアウトリーチ

2016年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 101A (1F)

コンビーナ:*植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)、長谷川 直子(お茶の水女子大学)、大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)、座長:大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)

14:45 〜 15:00

[G03-17] 学校から家庭に展開する実践的防災教育 -長野市立真島小学校を事例として-

*山崎 理沙1飯沼 貴朗2大木 聖子1 (1.慶應義塾大学環境情報学部、2.慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)

キーワード:防災、教育、地震、実践共同体論、家庭

東日本大震災以後、学校における防災教育の重要性が再認識され、見直しや改善が求められている(文部科学省,2013)。一方で、児童が最も長い時間を過ごす家庭内の防災対策は個々の家庭の意識により大きな差があり、依然として進んでいないというのが現状である(東京消防庁,2015;横浜市,2015)。そこで本研究では、学校での防災教育によって子供たちが自ら命を守れるようになるだけでなく、家庭内の防災対策が具体的に進むことを見据えて、児童・教員・保護者の意識や行動の変化を追った。
長野市立真島小学校をフィールドとして2015年7月から活動を開始した。上述の通り、特に重要なステークホルダーとなる保護者へのアプローチには、家庭内の具体的な対策を行う上での障壁をできる限り取り除き、主体的に防災に取り組むようになるよう工夫した。そして、小学校から各家庭・地域へと展開していく防災教育のモデルケースとなることを意識して、以下のような活動を実施した。1) 2015年7月、保護者を対象に防災に関する質問紙調査を実施し、地震へのイメージや備えについて調査。2) 8月、教員を対象にヒアリングを実施し、防災教育に対する意欲等について調査。3) 7月以降毎月、防災に関する児童向けおたよりを発行。4) 9月以降毎月、防災に関する保護者向けおたよりを発行。5) 9月、児童向けの防災授業と避難訓練、保護者向けの講演会を実施。6) 10月以降毎月、防災に関する地域住民向けおたよりを発行。7) 11月以降毎月、児童向けおたよりをミニ防災授業用に教材化し、担任がミニ防災授業を実施。8) 11月、小学校の避難訓練の指導、9)11月、真島地区区長会長、PTA会長・副会長と防災教育の地域への展開について議論、10) 2016年2月、保護者や地域住民向けに避難所運営に関するワークショップを実施。
これらの実践を通して、真島小学校を中心としたステークホルダーである児童・教員・保護者の意識や関係性の変化を、実践共同体論(Lave and Wenger,1991;孫 et al.,2012)を用いて検証したところ、児童・教員・保護者のそれぞれに変化が見られた。例えば児童については、避難訓練を通じて状況に応じた身の守り方を自らの判断でとれるようになったとの報告が教員からあがった。他にも、日本や世界の各地で災害が起きると地図でその場所を確認するようになった、保健室や病院といった訓練以外の場でも地震が起きた時に何が危険かを探すようになった、といった報告を随時教員から受けている。
教員に関しては、活動開始時のヒアリング時(上記2))には「防災に関してだと、私自身あまり知識もなく意識も高くない。」「何をすればよいのかわからない。」と言っていたが、9月の防災授業(上記5))の準備を共にしていくにあたって、次第に主体的な姿勢で取り組むようになってきた。また、休日に自主的に中越メモリアル回廊に行ったり、防災授業(上記7))の際に自ら地震の動画を用意して児童に見せる工夫を加えたりしている。更に、2月のワークショップ(上記10))には勤務時間外にも関わらず教員の半数以上が自主的に参加した。
本研究での重要なステークホルダーである保護者について我々があらかじめ設定した目標は、「学校で子供たちが受けている防災授業の内容を把握するだけでなく、児童に防災を教えられるような立場になる」であった。防災授業(上記5))後の子供たちの作文を見ると、実際に保護者が自宅で授業の復習となるような防災クイズを出していることが書かれていた。他にも、防災おたより(上記3))で特集した非常食クッキングを子供と行っていたり、自主的な勉強会として平日の夜に開催したワークショップ(上記10))に半数以上の保護者が参加したりしている。同ワークショップ後には、今後は保護者が地域住民を対象として同様のワークショップを行いたいので教材を使用していいかと声がかかった。これらのことにより、少なくとも一部の保護者に関しては一時的であれ目標を達成できたことがわかった。
発表では、これまでの活動を通して見られた変化の実践共同体論に基づいた分類に加えて、質問紙調査やインタビューを通した保護者・教員の意図・行動の変化の分岐点を明らかにし、小学校を中心とした地域における防災実践について考察する。