日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-03] 地球惑星科学のアウトリーチ

2016年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 101A (1F)

コンビーナ:*植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)、長谷川 直子(お茶の水女子大学)、大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)、座長:大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)

15:00 〜 15:15

[G03-18] 「4コマ漫画教材」を用いた避難所運営シミュレーション

*齋藤 文1大木 聖子2 (1.慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科、2.慶應義塾大学環境情報学部)

キーワード:避難所運営シミュレーション、防災教育

東日本大震災から5年が経過するが,実効的な防災教育についての模索は依然として続いている. 発災時に子供達が自ら状況を判断して身を守り,沿岸地域であれば即座に高台へ避難するという行動を当たり前にとれるようになるには,地震と津波の関係やそれらの発生メカニズムだけではなく,発災時に生き抜く術や避難所生活で起こりうる問題,起こりうる災害に備えて今何ができるのかを具体的にイメージして行動する訓練が必要である.
そこで筆者は,様々なジレンマが伴う被災状況下での問題を被災者の体験談から拾い上げ,平常時の学校活動の中で教員と生徒が共に考えられる教材として「4コマ漫画教材」を開発した.「4コマ漫画教材」は以下の5つのシーンから成る.状況設定を提示する導入(第0コマ),災害時に人々が直面しうる状況を表現する第1〜3コマ,登場人物のセリフが空欄になっている第4コマである.この4コマ目の空欄に自分だったらどう判断し返答するか,どんな言葉なら相手が納得してくれるかを考え,セリフを埋める仕掛けになっている.本教材は,修学旅行編,津波避難編などその土地や場面に合わせて作成をしており現時点でその種類は20パターン以上ある.同様の先行教材にはクロスロード(矢守,2005)があり,4コマ漫画教材との比較については昨年度の本セッションでの発表(齋藤・大木,2015)を参考いただきたい.
本発表ではその中から,昨年夏に考案した「避難所係班別4コマ漫画」のケースを報告する.「避難所係班別4コマ漫画」は,各自治体が公表している避難所運営マニュアルに載っている係班の中から庶務班・情報班・衛生班・食料物資班・学校再開準備班を選び,それぞれの班が災害時に直面するであろう問題を4コマ漫画でシミュレーションしている.
従来,4コマ漫画教材を使った授業や地域のワークショップでは「問題発生→対処法を考える→決断→集団での合意形成→セリフの発表→防災の専門家からのフィードバック」という流れをとっていたが,「避難所係班別4コマ漫画」を使った授業やワークショップでは新たに「事例カード」を用いることとした.「事例カード」は過去の災害における実例からそれぞれの係班の問題に即した体験談を各8事例ずつ選んだもので,発生した問題に対して賛成意見と反対意見の両方を載せている.これを用いたワークショップの流れとしては「問題発生→対処法を考える→決断→集団での合意形成→『事例カード』の投入→集団での合意形成→セリフの発表→グループをまたいだ意見交換」となる.
「事例カード」には過去の実例を学ぶだけでなく,自身の下した決断を評価する指針としての役割があり,正解のない問題を扱う4コマ漫画教材において非常に重要な役割を果たしている.被災経験者や防災の知識を広くもつ専門家の言葉や意見は,被災未経験者に大きな影響力や説得力をもつが,その体験談や知識はいかなる状況でも通用するものではなく,時に教訓が仇となってしまうケースもある.したがって,4コマ漫画のプレーヤーに望ましい姿勢は,正解を専門家から受け取るのではなく,体験談や専門家の意見を参考にしながら自分の置かれた状況下でより良い決断をするために必要な情報を自身で取捨選択する姿勢である.「事例カード」は相反する事例を載せることで,1つの事例に左右されることなく,また専門家の直接的な介入なしに,自身の考えや決断を評価する指標として機能している.
本教材は開発以来,様々な中学・高校,地域の防災ワークショップなどで活用されている.発表では代表例として,長野市立真島小学校・横浜市立東山田中学校・土佐清水市立下ノ加江小学校での実践を紹介する.4コマ漫画教材ワークショップの参加者からは,リスクの事前共有ができる,他のグループの「事例カード」もぜひ読んでみたい,事前の知識がなくても皆が同じ土台で考えられてよい,自主防災組織の研修でも使ってみたい,などの意見を得ている.どのような意見交換を経て合意形成をしたのか,プレーヤーがどれだけ災害時をリアルにイメージできているのかについて,ワークショップでのプレーヤーのやりとりを分析して評価する.