日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-04] 小・中・高・大の地球惑星科学教育

2016年5月22日(日) 10:45 〜 12:15 203 (2F)

コンビーナ:*畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、座長:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、根本 泰雄(桜美林大学自然科学系)

11:00 〜 11:15

[G04-07] 学校で地学を学ぶ理由

*磯崎 哲夫1 (1.広島大学大学院教育学研究科)

キーワード:地学、地学を学ぶ価値、科学的リテラシー、文脈を基盤とするアプローチ

第二次世界大戦後、他の物理、化学、生物とともに地学は新制高等学校の理科の一科目として開設された。しかしながら、地学を履修する生徒の数は、高等学校学習指導要領の改訂に影響され減少している。この地学の選択履修者の少ない理由としてはいくつもの理由が考えられる。例えば、地学を教える教師の不足がある。また、生徒が地学に魅力を感じていないこともある。しかしながら、最も重要なのは、一般の人はもとより、理科教師までも、地学は他の理科の科目と同様に当然あるべきものと信じて疑わなかった。そのため、理科教師や政策決定者は、学校で地学を学ぶ理由について深く、公的に議論をする機会を逸してきた。一般的に、理科教育では、目的・目標について明確に述べることが求められる。それは、児童・生徒がなぜ理科を学ぶことに価値があるのか、理科を学んだ経験から何を獲得することが期待されているのか、を明確にする必要がある(Millar and Osborne, 1998)。
本研究は、科学教育の目的・目標論を分類したJ. Osborne(2000)の言説を援用し、地学教育の目的・目標論について検討した。まず、地学を学ぶ価値に関する最初の議論は、「実用的・功利的」価値である。それは、児童・生徒が地学を学ぶことにより科学的知識やスキルを獲得し、将来何らかの役に立つという見方である。第二は、「経済的・国家的」価値である。高度科学・技術社会であり知識基盤社会では、国際社会においてその国の地位を維持し、ハイテク産業を背景とする国際経済競争の勝者になるために、地学に関する科学者や技術者を必要とするという見方である。第三は、「教養的・文化的」価値である。地学は他の科学と同様に、人類が営々と築いてきた文化であるとする見方である。第四は、「民主主義的」価値である。科学的リテラシーを有する市民として、エネルギー資源や地球温暖化といった地学に関する科学・技術を背景とする社会的諸問題に対して、科学的証拠に基づいて意思決定をする必要があるとする見方である。とりわけ、「科学的リテラシー」の観点からすれば、「文化的・教養的」価値と「民主主義的」価値は、他の価値よりも強調されるべきである。もちろん、この四つの価値は、時代により一長一短がある。
学校において地学を学ぶ価値について分析した結果、筆者は、上述の四つの価値に加えて、「教育学的」価値についての議論が必要であることを主張した。専門家による知的大系である地学を、子どもの知的発達や学校文化等の文脈に合わせる必要がある。地学を学ぶ経験は、児童・生徒が科学的リテラシーを有した将来の市民になることや自然の事物現象に直接触れることを通して、生命を尊厳する態度、科学・技術が背景にある諸問題への洞察力、環境保全への知的興味、などを育成するとともに、職業選択への決定を促進することもできる(Isozaki, 1996)。そのため、地学の教育学的価値は、上述の四つの価値の議論に加えられるべきである。地学の教養的・文化的価値、民主主義的価値、及び教育学的価値を強調するためには、文脈を基盤とするアプローチが、内容を基盤とするアプローチと適切に組み合わされるべきである。
文献
Isozaki, T. (1996). A survey of earth science education in Japan. In D. A. V. Stow and G. J. H. McCall (Eds.), Geoscience education and training: In schools and universities, for industry and public awareness, (pp. 93-107). Rotterdam: A.A. Balekema.
Millar, R. and Osborne, J. (Eds.) (1998). Beyond 2000: Science education for the future. London: king’s College London.
Osborne, J. (2000). Science for citizen. In M. Monk and J. Osborne (Eds.), Good practice in science teaching: What research has to say (pp. 225-240). Buckingham: Open University Press.