日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-04] 小・中・高・大の地球惑星科学教育

2016年5月22日(日) 10:45 〜 12:15 203 (2F)

コンビーナ:*畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、座長:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、根本 泰雄(桜美林大学自然科学系)

11:15 〜 11:30

[G04-08] 地球惑星科学における教育支援の重要性

*藤本 光一郎1 (1.東京学芸大学)

キーワード:学習支援、博物館、ジオパーク、連携

理科は小学校段階においてこどもたちの最も好きな科目の一つであり,宇宙や星,化石,恐竜など地球惑星科学的な内容はとりわけ人気が高い.しかし中学校段階では理科の好きな生徒の割合は下がり,教科の勉強が大切,わかる,役に立つというような肯定的な回答も大幅に割合を減らしている.この状況の改善は,欧米に比較して低いと言われる日本の科学リテラシーの向上などにとって重要である.

学校教育における地球惑星科学領域の問題点として,苦手意識を持つ教員の多さや専門性の高い教員の不足があげられる.小学校で理科を教える教員を対象とした全国調査で15%以上の教員が「月と星」「土地のつくりと変化」を教えるのが苦手な3つの単元の1つにあげ上位を占めており,また,前者は41%,後者は30%の教員が観察・実験の実施が困難な単元としてあげている(日本科学技術振興財団,2011).中学校については,「地学」を苦手あるいはやや苦手とする教員はおよそ42%であり,「物理」の32%,「化学」の14%,「生物」の28%に比べて高い数字となっている(科学技術振興機構,2013).これは,高校時代に地学を履修しておらず,大学時代にも地学を専攻していない教員が多いことが要因と考えられる.特に地球惑星科学において大切な野外観察や標本の観察などを指導するには経験が必要であり,多くの教員にとってハードルは高いと言える.

このような教員側の状況の中で,地学系の教員でなくても実験や観察の困難さを軽減して教育効果をあげるための学習支援を充実させることが求められる.多くの学習支援がすでに実践されているが,宮下(2009)は,学習支援者と担当教員の両者が主体的に教育に関わるやり方において,児童生徒にとっての専門性の高い教育効果が得られるとともに教員自身の指導力向上にも資すると述べている.また,学校からの学習支援の要請を受け,教材提供や指導方法の支援や野外学習支援者の派遣などを行う専門性の高い人材からなる「野外学習支援センター」を提案している.

さらに,博物館やジオパークは学習支援の拠点となりうる.博物館においては以前に増して学校教育との連携の重要性が強調され,学校との窓口や学習指導要領に沿った教育プログラムを設け,学校側が利用しやすい工夫がなされている博物館も増えている.館内での催しだけでなく,学校への出張展示や出前授業,野外見学会の実施など内容も多岐にわたっており,学校側の多様な要望に合わせた取り組みが行える体制が整ってきている.さらに近年盛り上がりを見せるジオパークにおいても,①教材に適するジオサイトが設定され,観察路や案内板,パンフレットなどが整備されていること,②専門性の高い職員が多くの場合常駐し,研修を受けたボランティアのガイド組織が発達していることなどから,野外学習支援の拠点となる可能性を持っている.

近年,児童生徒の教育を学校内部で閉じずに,様々な専門家や地域社会などと連携協働して行う教育支援の重要性が指摘されている.その中で高い専門性を持つ教育支援者を職業として確立させることも課題となっている.カウンセラーやソーシャルワーカーなどは次第に職業として確立されつつあるが,教科教育に関する教育支援・学習支援は専門家のサイドワークかボランティア的位置づけにとどまっているのが実態と言える.学校を中心として博物館やジオパーク,地域社会,行政,専門家集団,企業など様々な領域間の連携を組織的に深めていくことが効果のある学習支援を行ううえで不可欠である.そのためには,学問的な専門性のみならず学校現場にも精通し,様々な領域の連携調整を図ることのできる支援者の育成や職業としての確立を進める必要がある.