日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] 原子力と地球惑星科学

2016年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 304 (3F)

コンビーナ:*笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、佐藤 努(北海道大学工学研究院)、吉田 英一(名古屋大学博物館)、座長:新里 忠史(日本原子力研究開発機構)

09:00 〜 09:15

[HCG25-01] 地質学的に見たウラン資源の長期供給可能性に関する検討

*笹尾 英嗣1 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)

キーワード:ウラン資源

<はじめに>
平成27年7月に発表された「長期エネルギー需給見通し」では,2030年度における日本の電源構成に占める原子力の割合として,20~22%が示されている。原子力発電の燃料となるウランは,他の鉱物・エネルギー資源と同様に有限であることから,長期的な供給可能性を検討しておく必要がある。
ウラン資源に関しては,国際機関や各国の政府機関による報告が定期的になされている。例えば,OECD/NEA(経済協力開発機構原子力機関)とIAEA(国際原子力機関)は共同で各国からの報告に基づいて,2年ごとにUraniumという報告書(通称レッドブック)をまとめている(最新版は2014年版;OECD/NEA-IAEA, 2014)。そこで,本論では,主にレッドブックに基づいて,今後のウランの需給関係を整理する。その上で,今後の資源量増加の可能性について,主要なウラン生産国であるカナダとオーストラリアを対象に,地質学的見地から検討する。
<ウラン資源量と需要>
レッドブック2014年版によれば,260米ドル/1kgU(100米ドル/ポンドU3O8に相当)以下のコストで回収できる「既知資源」(確認資源と推定資源の合計)は,全世界で760万トンUとされる。2012年の年間ウラン必要量は61,600トンUと見積もられており,ウラン必要量が今後も変化しなければ,約120年分のウランが発見されていることになる。2035年の年間ウラン必要量は72,205~122,110トンU/年と見込まれており,既知資源によってウランを供給できる年数は必要量に応じて変化(減少)することになる。
<ウラン鉱床の分類>
ウラン鉱床は,様々な時代,母岩,地質構造,鉱石鉱物,産状のものが知られている。OECD/NEA-IAEA (2014)は,地質学的産状の違いに基づいて,ほぼ経済性の高い順に,①砂岩型鉱床,②原生代不整合型鉱床,③多金属鉄酸化物角礫複合岩型鉱床,④石英中礫礫岩型鉱床,⑤花崗岩関連型鉱床,⑥変成岩型鉱床,⑦貫入岩型鉱床,⑧火山関連型鉱床,⑨交代岩型鉱床,⑩表成型鉱床,⑪炭酸塩型鉱床,⑫陥没角礫型鉱床,⑬燐灰土型鉱床,⑭亜炭・石炭型鉱床,⑮黒色頁岩型鉱床の15カテゴリーに分類している。
<「既知資源」増加の可能性>
カナダは2012年には約9千トンUを生産した。これは世界第2位の生産量(第1位はカザフスタン)であるが,2012年までの累積生産量は世界最大である。カナダでは,現在は全量が原生代不整合型鉱床から生産されている。原生代不整合型鉱床は他の鉱床タイプに比べて一般に高品位で1鉱床当たりの資源量が多い。例えば,現在の重要なウラン鉱山であるCigar Lake鉱床とMcArthur River鉱床は,いずれも資源量10万トンU以上で,品位約15%U3O8以上である。このため,平面的な広がりは,McArthur River鉱床で延長方向1,700m,幅30m程度,Cigar Lake鉱床で延長方向1,950m,幅20~100m程度と小さい。これらの鉱床は地表下400m以深に存在する。
これらの鉱床周囲では,1960年代から盛んに探鉱が行われ,多くの原生代不整合型鉱床が発見されている。しかし,鉱床が地下深部に存在する場合,直接的な探査手法はボーリング調査に限られる。原生代不整合関連型鉱床は平面的な広がりが小さいことから,ボーリング調査が行われていない場所も多く,未だに探査余地が残されている。上記のMcArthur River鉱床の発見は1989年であるが,その後もMillennium鉱床(2000年発見),Phoenix鉱床(2008年発見)などの優良な鉱床が発見されており,現在も鉱徴の発見が報告されている(Government of Saskatchewan,2015)。このような点を考慮すると,今後も優良な鉱床が発見される可能性は高く,「既知資源」の増加に寄与するものと考えられる。
オーストラリアは2012年には約7千トンUを生産し,世界第3位の生産量であった。ウランは原生代不整合型鉱床,多金属鉄酸化物角礫複合岩型鉱床,砂岩型鉱床から生産されている。オーストラリアでは未開発の鉱床が多数知られており,今後はそれらの開発が進められると思われる。一方で,過去のウラン鉱山政策の影響もあり,未だに十分な探鉱が行われていない場所が多いことから,探鉱活動の進捗に伴って,新規の鉱床が発見される可能性は高いと推察される。
文献
Government of Saskatchewan, 2015, Saskatchewan Exploration and Development Highlights 2015.
OECD/NEA-IAEA, 2014, Uranium 2014: Resources, Production and Demand.