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[HCG25-02] 地質環境長期安定性評価確証技術開発
キーワード:地質環境長期安定性、地質環境長期変動モデル、革新的要素技術、高レベル放射性廃棄物、地層処分
はじめに
わが国の高レベル放射性廃棄物の地層処分計画を円滑に進めていくためには、地層処分の技術的信頼性を更に高め、国民の理解と信頼を得ていくと同時に、処分事業や安全規制の基盤となる技術を整備・強化していくための研究開発を着実に行っていく必要がある。地層処分とは、人工バリアと天然の地層を適切に組み合わせた多重バリアシステムによって、数万年以上に及ぶ時間スケールの安全を確保するものである。このため、このシステムの長期的な変化をモデル計算によって予測・評価しつつ、その結果に基づいてシステムの性能や安全性の判断が行われる。こうした評価にあたっては、対象とする時間スケールに伴う不確実性に注意を払うことが必要である1)。一方、日本列島は変動帯に位置していることから、諸外国に比べて地殻変動が活発である。そのため、将来のシステムに著しい影響を与える可能性がある自然現象を特定すると同時に、その現象に伴う地質環境の変動パターンやスケールを把握しておくことが重要となる。
数万年以上の時間スケールにおける予測の方法論については、外挿法、類推法、確率論、シミュレーション等が提案されている。また、地殻変動に支配される隆起・沈降やこれらに伴う侵食等は、緩慢かつ広域的な現象である。そのため、プレート運動の枠組みで生じる永続性がある現象の場合には、外挿法が特に有効な予測法と考えられる2)。実際の地質環境を構成する様々な要素の過去から現在までの変動履歴や現象プロセスを表現できる数値モデルを開発すると同時に、これらを用いた地質環境の変動の予測(外挿)によって、将来の地層処分システムの長期的な変化を検討していくことは、今後、地層処分の技術的信頼性を更に高めていく上でも有効となる。
このような背景から、原子力機構では、経済産業省委託事業「地層処分技術調査等事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」を平成25年度から開始し、第四紀の地殻変動とそれに伴う地質環境の変動を表現できる数値モデル(地質環境長期変動モデル)の開発とモデル構築に必要な個別の要素技術(革新的要素技術)の開発を進めている。
実施概要と主な成果
地質環境長期変動モデル
地質環境長期変動モデルの開発では、東濃地域と幌延地域を山間部と平野部の事例としてモデル構築手法を検討すると同時に、これまで個別に進められてきた地質環境の各分野のモデルを統合的に取り扱い、地質環境の長期的な変動を表現できる数値モデルの構築の方法論を整備する。また、モデルの妥当性の確認及び不確実性の評価のための方法論や、構築したモデルを効果的に表現する可視化技術の検討も進めている。
これまでに、山間部と平野部における個別モデルに影響を与える現象等の抽出と相互関係を整理し、長期変遷シナリオの整備を進めると同時に、統合モデルのイメージの構築及び統合モデルで考慮するイベントとプロセスの整理を実施した。また、地形・地質モデルと地表環境モデルの長期変動を考慮した水理モデルの感度解析結果を用いて、標準偏差と変動係数を評価指標とした地下水流動特性の不確実性の定量化手法を検討した。
革新的要素技術
長期的な時間スケールでのモデル化及びその解析評価に必要な技術として、山地や丘陵の形成過程を推定する後背地解析技術、過去の地下水涵養量を古気候や古地形の情報から推定する地下水涵養量推定技術、過去の地下水の化学的状態とその時代を推定する炭酸塩鉱物測定技術、過去から将来の地殻変動を数値シミュレーションから推定する地殻変動予測技術の開発を進めている。
これまでに、石英の物理化学特性等を指標とした堆積物の供給源を特定する手法、地形を考慮して河川流出量を推定する手法、炭酸塩鉱物の放射年代測定法の開発、活断層の変位速度に基づく歪速度分布やプレート境界における運動学的モデル等の開発等を進めてきた。
今後の課題
今後は、地形・地質、地表環境、水理、地球化学の各モデルの統合化を図ると同時に、山間部と平野部の地質環境の違いに着目して、地形・地質モデルを作成する際の不確実性が地下水流動解析結果に及ぼす影響を分析する必要がある。また、引き続き要素技術の開発を行い、開発した技術をモデルへ反映する方法論を提示することも課題である。
引用文献
1) 地層処分基盤研究開発調整会議,地層処分基盤研究開発に関する全体計画(平成25年度~平成29年度),2013,79p.
2) 日本地質学会編,地質リーフレット4,日本列島と地質環境の長期安定性,2011.
わが国の高レベル放射性廃棄物の地層処分計画を円滑に進めていくためには、地層処分の技術的信頼性を更に高め、国民の理解と信頼を得ていくと同時に、処分事業や安全規制の基盤となる技術を整備・強化していくための研究開発を着実に行っていく必要がある。地層処分とは、人工バリアと天然の地層を適切に組み合わせた多重バリアシステムによって、数万年以上に及ぶ時間スケールの安全を確保するものである。このため、このシステムの長期的な変化をモデル計算によって予測・評価しつつ、その結果に基づいてシステムの性能や安全性の判断が行われる。こうした評価にあたっては、対象とする時間スケールに伴う不確実性に注意を払うことが必要である1)。一方、日本列島は変動帯に位置していることから、諸外国に比べて地殻変動が活発である。そのため、将来のシステムに著しい影響を与える可能性がある自然現象を特定すると同時に、その現象に伴う地質環境の変動パターンやスケールを把握しておくことが重要となる。
数万年以上の時間スケールにおける予測の方法論については、外挿法、類推法、確率論、シミュレーション等が提案されている。また、地殻変動に支配される隆起・沈降やこれらに伴う侵食等は、緩慢かつ広域的な現象である。そのため、プレート運動の枠組みで生じる永続性がある現象の場合には、外挿法が特に有効な予測法と考えられる2)。実際の地質環境を構成する様々な要素の過去から現在までの変動履歴や現象プロセスを表現できる数値モデルを開発すると同時に、これらを用いた地質環境の変動の予測(外挿)によって、将来の地層処分システムの長期的な変化を検討していくことは、今後、地層処分の技術的信頼性を更に高めていく上でも有効となる。
このような背景から、原子力機構では、経済産業省委託事業「地層処分技術調査等事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」を平成25年度から開始し、第四紀の地殻変動とそれに伴う地質環境の変動を表現できる数値モデル(地質環境長期変動モデル)の開発とモデル構築に必要な個別の要素技術(革新的要素技術)の開発を進めている。
実施概要と主な成果
地質環境長期変動モデル
地質環境長期変動モデルの開発では、東濃地域と幌延地域を山間部と平野部の事例としてモデル構築手法を検討すると同時に、これまで個別に進められてきた地質環境の各分野のモデルを統合的に取り扱い、地質環境の長期的な変動を表現できる数値モデルの構築の方法論を整備する。また、モデルの妥当性の確認及び不確実性の評価のための方法論や、構築したモデルを効果的に表現する可視化技術の検討も進めている。
これまでに、山間部と平野部における個別モデルに影響を与える現象等の抽出と相互関係を整理し、長期変遷シナリオの整備を進めると同時に、統合モデルのイメージの構築及び統合モデルで考慮するイベントとプロセスの整理を実施した。また、地形・地質モデルと地表環境モデルの長期変動を考慮した水理モデルの感度解析結果を用いて、標準偏差と変動係数を評価指標とした地下水流動特性の不確実性の定量化手法を検討した。
革新的要素技術
長期的な時間スケールでのモデル化及びその解析評価に必要な技術として、山地や丘陵の形成過程を推定する後背地解析技術、過去の地下水涵養量を古気候や古地形の情報から推定する地下水涵養量推定技術、過去の地下水の化学的状態とその時代を推定する炭酸塩鉱物測定技術、過去から将来の地殻変動を数値シミュレーションから推定する地殻変動予測技術の開発を進めている。
これまでに、石英の物理化学特性等を指標とした堆積物の供給源を特定する手法、地形を考慮して河川流出量を推定する手法、炭酸塩鉱物の放射年代測定法の開発、活断層の変位速度に基づく歪速度分布やプレート境界における運動学的モデル等の開発等を進めてきた。
今後の課題
今後は、地形・地質、地表環境、水理、地球化学の各モデルの統合化を図ると同時に、山間部と平野部の地質環境の違いに着目して、地形・地質モデルを作成する際の不確実性が地下水流動解析結果に及ぼす影響を分析する必要がある。また、引き続き要素技術の開発を行い、開発した技術をモデルへ反映する方法論を提示することも課題である。
引用文献
1) 地層処分基盤研究開発調整会議,地層処分基盤研究開発に関する全体計画(平成25年度~平成29年度),2013,79p.
2) 日本地質学会編,地質リーフレット4,日本列島と地質環境の長期安定性,2011.