日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] 原子力と地球惑星科学

2016年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 304 (3F)

コンビーナ:*笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、佐藤 努(北海道大学工学研究院)、吉田 英一(名古屋大学博物館)、座長:新里 忠史(日本原子力研究開発機構)

10:00 〜 10:15

[HCG25-05] 断層の遮水効果に関する解析的検討

*竹内 真司1土橋 沙紀1 (1.日本大学文理学部地球システム科学科)

キーワード:断層コア部、遮水効果、断層ブロック、地下水流動、地層処分

はじめに
変動帯に位置する日本列島には多くの断層が存在する(産総研 地質図navi)。このうち、比較的規模の大きな(トレース長の長い)断層については、粘土等の細粒物質からなる断層ガウジあるいは断層粘土などと呼ばれる、断層運動により粉砕され細粒化した断層コア部とその周辺に亀裂を伴うダメージゾーンが発達することが各地で報告されている(吉田ほか2009など)。このような断層は地層処分場の領域内でも出現することを想定しておくことが必要と考える。断層コア部はダメージゾーンに比べて透水性が低いため、その直交方向の地下水流動には遮水構造として機能すると考えられる(Evans et al.1997)。仮に低透水性の断層コア部を有する断層で四方を囲まれた領域(以下、断層ブロック)が存在する場合、この断層ブロック内部で立坑掘削などにより地下水を揚水すると、水位低下領域は主としてブロックの内側に限定され、その外側での水位低下量は小さくなることが予想される。また水位回復過程では、外部からの地下水の供給が制限されることから、周辺からの地下水供給が少ない場合には、回復速度は遅く不飽和な期間が長期に継続すると考えられる。筆者らはこれまでに、①断層ブロック内部での排水時(立坑掘削時)の地下水位低下挙動に関する簡易解析、②我が国の断層ブロックの分布特性、③トレース長と断層コア部の厚さの関係などについて検討を行ってきた。その結果、①については、母岩と断層の透水係数に4桁程度の差を設けた簡易的な解析により、断層ブロック内部と外部で水位低下量に大きな差が生じる結果を得た。特に外部では水位低下はほとんど生じない結果となった。②については、シームレス地質図をベースに日本列島に分布する断層ブロックの面積は、日本列島全体の約2%であり、このうちの90%以上は、先新第三紀の堆積岩類あるいは深成岩類で、いわゆる亀裂性岩盤であることが分かった(竹内ほか2015)。さらに、抽出された断層ブロックの面積のヒストグラムは、ほとんどの地域で、現在想定されている地層処分場の面積(NUMO,2010など)と同等の面積を有する断層ブロックが卓越することが分かった(竹内ほか、2015)。原子力機構が瑞浪の深地層の研究施設計画で実施している調査研究結果(JAEA,2007など)では、地質図に表現されていないような、断層コア部を有する断層破砕帯や断層ブロックが確認されていることから、実際の断層ブロックの割合は上記よりも多いと考えられる。さらに③に関しては、既存資料に基づいて断層コア部の厚さとトレース長の概略的な関係を見出し、断層のトレース長が数百メートル以上では断層コア部の厚さが20cm程度と頭打ちになる傾向を有する可能性があることを示した(竹内ほか、1995)。
これまでの検討では、断層の透水係数とコア部の厚さの関係については詳細な検討がなされていなかったことから、今回、断層の透水係数と厚さをそれぞれ変更し、断層ブロック内で立坑掘削による揚水を行った場合の断層ブロック内外の水位低下量等がどのように変化するかについて解析的な検討を行った。

解析モデル
4km×4km×1.2km(深さ方向)の領域内のほぼ中央部に3.2㎞×3.2㎞×1.2㎞(深さ方向)の断層ブロックを設定した。領域の側方境界条件は、固定水頭境界、下面境界条件は不透水境界とした。また、断層の透水係数を1E-10(m/s)、1E-11(m/s)、1E-12(m/s)に設定し、それぞれのケースで断層の厚さを50m、80m、100mとして解析を行った。なお、断層以外の母岩の透水係数は、1E-5(m/s)とした。解析は、断層ブロック中心部に設けた深度300mの立坑から揚水した際の断層ブロック内外の水頭値を定常解析により求めた。


解析結果
断層の透水係数が1E-10(m/s)のケースでは、断層の厚さが50mの時は深度約155mまで、80mと100mでは約250mまでブロック内の水位がほぼ一様に低下した。また、透水係数が1E-11(m/s)のケースでは、断層の厚さに関わらず全てのケースで約355mの深度まで一様に水位低下した。さらに、1E-12(m/s)のケースでは、断層の厚さが50mと80mの場合はそれぞれ約355m、100mの場合は約455mまで一様に水位低下した。なお、いずれの場合も、断層ブロック外側の母岩の水位はほとんど低下しなかった。

まとめ
以上のことから、断層ブロックの遮水特性は、ブロックを構成する断層の透水係数と断層の厚さによって変化することが明らかとなった。また、ケースによっては立坑深度よりも深くまで水位低下する可能性が示唆された。今後は、回復過程での地下水挙動や、野外において規模の大きい断層を対象に、断層コア部の厚さや透水係数など断層の特性を詳細に検討する予定である。