11:00 〜 11:15
[HCG25-08] 花崗岩を対象とした原位置トレーサー試験
キーワード:トレーサー試験、花崗岩、割れ目
高レベル放射性廃棄物を地層処分する際の天然バリアの性能評価においては、処分施設周辺岩盤の地下水溶質の移行特性を精度良く把握する必要がある。そのため、著者らは、岩盤中での地下水溶質の移行特性を直接的に測定する手法である原位置トレーサー試験技術について、主に岩盤割れ目を対象に収着性トレーサーも使用可能な原位置試験装置や、トレーサー試験の結果から溶質移行パラメータを評価する手法の開発を進めている。その一環として、開発した試験装置を用いて花崗岩が分布する国内の試験場において、単孔トレーサー試験や孔間トレーサー試験を実施した。
試験場は、日本原子力研究開発研究機構の瑞浪超深地層研究所の深度300 mボーリング横坑である。トレーサー試験には、坑壁から掘削された2本のボーリング孔12MI31号孔と13MI37号孔を用いた。12MI31号孔と21.90 mabh(meter along the borehole)で交差する割れ目と13MI37号孔と23.14 mabhで交差する割れ目は、ボアホールTVを用いた孔壁観察結果、13MI37号孔掘削時や透水試験時の12MI31号孔の間隙水圧の応答などから、同一の割れ目である可能性が高く、この割れ目を対象としてトレーサー試験を実施した。孔間の直線距離は2.95 mである。事前の単孔水理試験により得られた対象割れ目の透水量係数は、12MI31号孔で6.9×10-8 m2/sec、13MI37号孔で1.1×10-6 m2/secであった。また、ボーリング掘削により採取した岩石コアよりこの割れ目を観察したところ、緑泥石、粘土、黄鉄鉱が充填しており、割れ目周辺の岩盤にも緑泥石化等の変質が見られた。
単孔トレーサー試験は、単一の試験孔の同一区間でトレーサーの注入、回収を行う試験である。まず、原位置でサンプリングした地下水を定流量で注入し、岩盤内の地下水流れ場が定常に達した後に定流量で一定時間トレーサーを注入する。さらに、地下水を定流量で一定時間チェーサーとして注入した後、定流量で揚水を行いトレーサーを回収する。
孔間トレーサー試験としては、ダイポール試験を実施した。まず、1つの孔から原位置でサンプリングした地下水を注入し、同時に別の孔で揚水を行う。岩盤内の地下水流れ場が定常に達した後に、注入水をトレーサー溶液に切り換え、揚水孔でトレーサーを回収する。高い回収率を得るために、注水流量を揚水流量の1/5あるいは1/10に設定した。
トレーサー物質としては、非収着性の蛍光染料であるウラニンとアミノG酸、同じく非収着性の重水素とヨウ素、収着性のルビジウムとバリウムを用い、これら6種類のトレーサー物質を原位置でサンプリングした地下水を溶媒として混合しトレーサー溶液とした。試験では揚水からフラクションコレクターによりサンプリングを行い、サンプリング試料中の濃度を室内で分析した。ウラニンは蛍光濃度センサーによりオンラインでも濃度を計測した。
単孔トレーサー試験では、チェーサーの投入終了直後に揚水を開始した場合には、揚水開始後2時間で非収着性トレーサーで80~90%程度、収着性トレーサーでも70~80%の高い回収率が得られた。一方、チェーサーの投入から揚水開始までに待機時間を設けた場合には、バックグラウンドの地下水流れの影響により回収率の低下が見られた。また、いずれの場合でも、収着性トレーサーの投入濃度に対する回収濃度の比のピーク値は、非収着性トレーサーに比べて低かった。
孔間トレーサー試験では、非収着性トレーサーの回収率は、試験開始後10時間で54~63%であり、やはりバックグラウンドの地下水流れの影響がみられた。ルビジウムの回収率は試験開始後30時間でも24~25%であり、非収着性トレーサーに比べて濃度ピークの低減や時間遅れがあり、岩盤への収着の影響が見られた。収着性がさらに強いバリウムでは、30時間後の回収率は約5%であり、回収濃度は試験を通じてバックグラウンドの濃度に近く有意な破過曲線を得ることができなかった。
今回の試験の結果、開発した試験装置は国内に分布する花崗岩に対しても適用できる見通しを得ることができた。今後は、トレーサー試験の結果から、数値シミュレーションにより、割れ目の開口幅、分散長、岩石マトリクスへの分配係数を推定する予定である。
なお、本稿の内容は、経済産業省資源エネルギー庁より(一財)電力中央研究所が受託し実施した「岩盤中地下水移行評価確証技術開発」の成果の一部である。また、試験に関しては、(国研)日本原子力研究開発機構との共同研究として実施した。
試験場は、日本原子力研究開発研究機構の瑞浪超深地層研究所の深度300 mボーリング横坑である。トレーサー試験には、坑壁から掘削された2本のボーリング孔12MI31号孔と13MI37号孔を用いた。12MI31号孔と21.90 mabh(meter along the borehole)で交差する割れ目と13MI37号孔と23.14 mabhで交差する割れ目は、ボアホールTVを用いた孔壁観察結果、13MI37号孔掘削時や透水試験時の12MI31号孔の間隙水圧の応答などから、同一の割れ目である可能性が高く、この割れ目を対象としてトレーサー試験を実施した。孔間の直線距離は2.95 mである。事前の単孔水理試験により得られた対象割れ目の透水量係数は、12MI31号孔で6.9×10-8 m2/sec、13MI37号孔で1.1×10-6 m2/secであった。また、ボーリング掘削により採取した岩石コアよりこの割れ目を観察したところ、緑泥石、粘土、黄鉄鉱が充填しており、割れ目周辺の岩盤にも緑泥石化等の変質が見られた。
単孔トレーサー試験は、単一の試験孔の同一区間でトレーサーの注入、回収を行う試験である。まず、原位置でサンプリングした地下水を定流量で注入し、岩盤内の地下水流れ場が定常に達した後に定流量で一定時間トレーサーを注入する。さらに、地下水を定流量で一定時間チェーサーとして注入した後、定流量で揚水を行いトレーサーを回収する。
孔間トレーサー試験としては、ダイポール試験を実施した。まず、1つの孔から原位置でサンプリングした地下水を注入し、同時に別の孔で揚水を行う。岩盤内の地下水流れ場が定常に達した後に、注入水をトレーサー溶液に切り換え、揚水孔でトレーサーを回収する。高い回収率を得るために、注水流量を揚水流量の1/5あるいは1/10に設定した。
トレーサー物質としては、非収着性の蛍光染料であるウラニンとアミノG酸、同じく非収着性の重水素とヨウ素、収着性のルビジウムとバリウムを用い、これら6種類のトレーサー物質を原位置でサンプリングした地下水を溶媒として混合しトレーサー溶液とした。試験では揚水からフラクションコレクターによりサンプリングを行い、サンプリング試料中の濃度を室内で分析した。ウラニンは蛍光濃度センサーによりオンラインでも濃度を計測した。
単孔トレーサー試験では、チェーサーの投入終了直後に揚水を開始した場合には、揚水開始後2時間で非収着性トレーサーで80~90%程度、収着性トレーサーでも70~80%の高い回収率が得られた。一方、チェーサーの投入から揚水開始までに待機時間を設けた場合には、バックグラウンドの地下水流れの影響により回収率の低下が見られた。また、いずれの場合でも、収着性トレーサーの投入濃度に対する回収濃度の比のピーク値は、非収着性トレーサーに比べて低かった。
孔間トレーサー試験では、非収着性トレーサーの回収率は、試験開始後10時間で54~63%であり、やはりバックグラウンドの地下水流れの影響がみられた。ルビジウムの回収率は試験開始後30時間でも24~25%であり、非収着性トレーサーに比べて濃度ピークの低減や時間遅れがあり、岩盤への収着の影響が見られた。収着性がさらに強いバリウムでは、30時間後の回収率は約5%であり、回収濃度は試験を通じてバックグラウンドの濃度に近く有意な破過曲線を得ることができなかった。
今回の試験の結果、開発した試験装置は国内に分布する花崗岩に対しても適用できる見通しを得ることができた。今後は、トレーサー試験の結果から、数値シミュレーションにより、割れ目の開口幅、分散長、岩石マトリクスへの分配係数を推定する予定である。
なお、本稿の内容は、経済産業省資源エネルギー庁より(一財)電力中央研究所が受託し実施した「岩盤中地下水移行評価確証技術開発」の成果の一部である。また、試験に関しては、(国研)日本原子力研究開発機構との共同研究として実施した。