日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] 原子力と地球惑星科学

2016年5月24日(火) 10:45 〜 12:15 304 (3F)

コンビーナ:*笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、佐藤 努(北海道大学工学研究院)、吉田 英一(名古屋大学博物館)、座長:幡谷 竜太(一般財団法人 電力中央研究所)

11:15 〜 11:30

[HCG25-09] 花崗岩における断層および熱水変質がマトリクス拡散に与える影響

*石橋 正祐紀1岩崎 理代1濱 克宏1 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)

キーワード:マトリクス拡散、断層、熱水変質、花崗岩

花崗岩などの結晶質岩では,物質の選択的な移動経路周辺の母岩への元素の拡散(マトリクス拡散)現象や収着現象が,物質の希釈や移動の遅延に効果がある。そのため,高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全評価を行う上で母岩中のマトリクス拡散現象の理解は重要となる。物質が拡散する速度(実効拡散係数;De)と岩石の空隙率との間には相関性があり,岩石中の微小空隙構造がマトリクス拡散の経路であることが知られている。花崗岩において微小空隙構造が発達する要因は,断層の形成による微小な亀裂(微小亀裂)の形成や熱水変質による鉱物の溶脱・形成が考えられる。地質学的変動帯に位置する日本列島に分布する花崗岩では,欧州など安定陸塊に分布する花崗岩と比較して断層が多いことから,微小亀裂も多い可能性が高い。また,健岩な部分でも熱水変質による二次鉱物の生成が認められ,微小な空隙が多い可能性がある。そのため国内の花崗岩におけるマトリクス拡散現象の理解を深める上では,断層の分布や熱水変質の影響を考慮することが必要であると考えられる。そこで,国内の花崗岩の特徴である断層や熱水変質に着目して,微小空隙構造の分布と量やマトリクス拡散現象との関係を把握することを目的とした研究を実施した。
本研究では,岐阜県瑞浪市に位置する瑞浪超深地層研究所の深度300mから採取した断層近傍の試料(3試料;断層近傍試料)と断層から離れた試料(3試料;健岩試料)を使用した。これらの岩石試料に対し,薄片観察,走査型X線分析顕微鏡(SXAM)分析,実体蛍光顕微鏡観察,走査型電子顕微鏡観察,非収着性のウラニンをトレーサー物質とした透過拡散試験を実施し,各試料の鉱物組成・分布,微小空隙構造の分布と空隙率およびDeを測定した。なお,微小空隙構造の分布や空隙率は,蛍光染料を含む接着剤を用いて作成した岩石薄片の実体蛍光顕微鏡観察から把握した。
目視観察の結果,断層近傍試料は,全ての試料が熱水変質を被っており,健岩試料は変質を被っていない。顕微鏡観察およびSXAM分析の結果,断層近傍試料には二次生成鉱物として緑泥石,イライト,方解石が全体の7~12%,健岩試料には約3~4%の二次生成鉱物が認められる。二次生成鉱物であるイライトや方解石は主に長石中に分布し,微小亀裂中にも認められる。微小空隙構造として,断層近傍試料,健岩試料いずれも微小亀裂に加えて,長石中に多数の微小空隙が認められる。断層近傍試料では,微小空隙構造は主に二次生成鉱物が認められない個所に分布する。空隙率は,断層近傍試料で2.3~4.2%,健岩試料で約0.7~1.9%と断層近傍試料で高い。断層近傍試料では,二次生成鉱物の割合が増加するにしたがって特に長石中の空隙率が減少する傾向が認められるが,健岩試料では二次生成鉱物の割合と空隙率に相関性は認められない。Deは,断層近傍試料で高く,健岩試料で低い傾向が認められる。また,Deと空隙率には正の相関があり,相関係数は0.92である。
断層周辺では,断層の形成に伴う物理的なダメージゾーンとして目視スケールの亀裂に加えて微小亀裂も増加することが知られている。本試料でも断層近傍試料では健岩試料に比較して微小空隙構造が多く認められており,これらは断層形成に伴うものである可能性がある。また,断層近傍試料では二次生成鉱物の割合が増えると長石中の空隙率が減少する傾向がある。すなわち,二次生成鉱物の割合を熱水変質の影響の程度の差と考えると,断層近傍試料では熱水変質の程度が強いと,長石の溶脱と二次鉱物の形成が同時に発生し,長石中の空隙率が低下すると考えられる。Deは単純に微小空隙構造の割合と同様に増減するが,本研究では,透過拡散試験のトレーサー物質として非収着性のウラニンを用いていることから,このDeの変化はマトリクス拡散経路の増減を表現していると考えられる。これらをあわせて考えると,断層近傍の領域では,健岩部に比較して微小空隙構造が多いためマトリクス拡散経路が増加するが,熱水変質を強く被るとその経路(微小空隙構造)が二次生成鉱物により充填または閉塞されると考えられることが推定される。
以上より,断層近傍では健岩部に比較して断層形成に伴いマトリクス拡散経路が増加するが,その増加した経路は,熱水変質を強く受けることで減少または閉塞される可能性が示唆された。しかし,イライト等の二次生成鉱物は,収着能があることが知られていることから,吸着性物質のDeは変わる可能性がある。また,本研究で用いた断層近傍試料は断層運動と熱水変質の両者の影響を受けている試料である。そのため,今後は吸着性物質を用いた検討を行うと共に,異なる産状(断層近傍の未変質試料や断層遠方の変質試料など)の試料での検討を進めていきたいと考える。