日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] 原子力と地球惑星科学

2016年5月24日(火) 10:45 〜 12:15 304 (3F)

コンビーナ:*笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、佐藤 努(北海道大学工学研究院)、吉田 英一(名古屋大学博物館)、座長:幡谷 竜太(一般財団法人 電力中央研究所)

12:00 〜 12:15

[HCG25-12] 福島県阿武隈山地の山地森林における放射性セシウム流出特性の経年変化

*新里 忠史1阿部 寛信1三田地 勝昭1石井 康雄1佐々木 祥人1渡辺 貴善1北村 哲浩1山口 正秋1 (1.日本原子力研究開発機構)

キーワード:東京電力福島第一原子力発電所事故、放射性セシウム、山地森林

はじめに
東京電力福島第一原子力発電所事故に由来する放射性物質のうち,放射性セシウム137(以下Cs-137)は半減期が約30年と長く,今後長期にわたり分布状況の変化をモニタリングし,影響を注視していく必要がある.福島県の約7割を占める森林域については,住居等近隣の森林や日常的に立ち入る森林での除染が進められるとともに,福島の森林・林業の再生に係る統合的な取組みが検討されている[1].本報告では,山地森林におけるCs-137の流出特性及び森林土壌におけるCs-137深度分布と流出率の経年変化を考察する.
調査地と手法
事故により放出されたCs-137は,樹木への沈着後,降雨に伴う林内雨や樹幹流及びリターフォールにより林床へ移動し,林床から土砂流亡及び表面流により林外へ移動すると考えられる.これら経路を通じた移動量を把握するために,福島県阿武隈山地北部と中部において,落葉広葉樹林の急傾斜地と尾根付近の緩傾斜地及びスギ林の急傾斜地に50-60 m2の観測区画を設定し, 2013年4月から2014年12月の約2年間にわたり林内雨量,樹幹流下量,リターフォール,土砂流亡量及び表面流量を観測するとともに,概ね1ヶ月間隔の試料採取とCs-137濃度分析を実施した.
森林土壌のCs-137深度分布は,観測区画を設置した小水系の尾根,斜面及び谷底において,2012年12月-2013年1月及び2014年9-10月に調査を実施した.鉱質土壌の露出深度を0 cmとして深度1 cm間隔で土壌を採取し,105℃で24時間乾燥後,Cs-137濃度を測定した.土壌に沈着したCs-137の深度分布は,最小二乗法を用いて指数関数によりフィッティングし形状を示す係数(α値)を求めた.各深度のCs-137沈着量は,Cs-137濃度,土壌密度及び採取土壌厚から算出した.Cs-137の流出解析はSACTモデル[2]を使用した.
結果
落葉広葉樹林に設置した観測区画における約2年間の林床へのCs-137沈着量は,林内雨で約1×102 Bq m-2,樹幹流で3×101~2×102 Bq m-2及びリターフォールで7×102 ~3×103 Bq m-2であり,尾根付近の緩傾斜地で比較的高い傾向にあった.林床からのCs-137流出量は,表面流で約1×101 Bq m-2,土砂流亡で8×101 ~2×102 Bq m-2であり,急傾斜地で比較的高い傾向にあった.一方,スギ林における同時期での林床へのCs-137沈着量は,林内雨と樹幹流でそれぞれ約1×102 Bq m-2及びリターフォールで約9×102 Bq m-2であり,落葉広葉樹林と大きな差異は認められなかった.林床からのCs-137流出量は,表面流で約1×101 Bq m-2,土砂流亡で約1×102 Bq m-2であり,落葉広葉樹林の急傾斜地での観測と同一オーダーであった.以上を整理すると,各観測区画における2013年4月~2014年12月の約2年間における林床へのCs-137沈着量は1×103~3×103 Bq m-2,流出量は1×102~2×102 Bq m-2となり,林床へのCs-137沈着量が流出量を上回る結果となった.
森林土壌におけるCs-137深度分布の経年変化は,尾根や谷底で地表面付近のCs-137沈着量が減少し,2014年9-10月における深度1 cmまでの沈着量は,2012年12月-2013年1月の約50-60%に減少していた.これとともに深度方向へCs-137が浸透する傾向が認められるが,深度5 cmまでの沈着量は全沈着量の84-92 %であり,地表面付近に大部分が存在していた.斜面域のCs-137沈着量は増加及び減少の双方が認められ,土砂の運搬と堆積に伴うCs-137の移動現象が不均質に生じていると考えられる.ここで,スギ林の観測区画を包含する流域において深度分布の異なる解析ケースでSACTモデルによりCs-137流出率を求めると,α値0.5で流出率0.14 %,α値1.2で流出率0.31%となり,Cs-137の深度方向への浸透により流出率が低下する可能性が示された.
以上から,過去2年間におけるCs-137流出特性は林床への沈着量が流出を上回り,森林土壌におけるCs-137深度分布の経年変化によると流出量はさらに低下すると見込まれる.このため,森林域は放射性セシウムのシンクとして振る舞う傾向にあると考えられる.
[1]復興庁,福島の森林・林業の再生のための関係省庁プロジェクトチーム第1回(平成28年2月5日).http://www.reconstruction.go.jp
[2]Yamaguchi, M., et al., 2014, Jour.Environ.Radiact.135, 135-146.