日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] 原子力と地球惑星科学

2016年5月24日(火) 13:45 〜 15:15 304 (3F)

コンビーナ:*笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、佐藤 努(北海道大学工学研究院)、吉田 英一(名古屋大学博物館)、座長:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)

14:45 〜 15:00

[HCG25-17] 高アルカリ条件におけるスメクタイトの安定性に関するナチュラルアナログ研究
- フィリピン パラワン島 Narra地区でのアクティブサイトの探索 -

*Shimbashi Misato1佐藤 努1大竹 翼1藤井 直樹2山川 稔2西村 政展3三好 悟3Alexander Russell4Arcilla Caloy5 (1.北海道大学工学院、2.原子力環境整備促進・資金管理センター、3.大林組、4.Bedrock Geosciences、5.National Institute of Geological Sciences, University of the Philippines)

キーワード:ナチュラルアナログ研究、Fe型スメクタイト、地層処分、アクティブサイト、高アルカリ水

原子力発電に伴い発生する放射性廃棄物は地層処分されることが考えられており、廃棄物を長期間、安全に隔離するために人工バリアが設置される。スメクタイト族の粘土鉱物は、低い透水性や高い陽イオン交換容量といった物性を持ち、それらの特有な物性を活かして、スメクタイトは人工バリアとして機能することが期待されている。しかし、周囲にあるセメント系材料から将来溶出してくる高アルカリ間隙水とスメクタイトが反応し、スメクタイトが人工バリアとしての機能を十分に長期間、果たせないことが懸念されている。その為、高アルカリ条件におけるスメクタイトの安定性を評価するために数々の室内実験が行われているが、室内実験で観測している反応と実際の処分環境で起こる反応には大きな隔たりがあるため、室内実験の結果のみから評価をすることには不確実性が残る。そこで、実際の処分環境で起こり得る反応に類似(アナログ)した反応が起きている天然のサイトを調べることによって、高アルカリ条件におけるスメクタイトの安定性評価に繋げるナチュラルアナログ研究が必要となる。特に、観測したい反応が今もなお続いているアクティブサイトでの研究が求められるが、スメクタイトと高アルカリ水に関するアクティブサイトでのナチュラルアナログ研究は数少ない。そこで本研究では、処分環境にアナログした適当なサイトを発見し、そこで起こっているスメクタイト-高アルカリ水相互作用を理解することを目的とした。
アクティブサイトの探索のために、フィリピン パラワン島 Narra地区でトレンチ調査を行った。トレンチサイトの地下を流れていた水試料の分析から、蛇紋岩化作用によって生成された高アルカリ水が流れていたことがわかった。トレンチの土試料のXRD分析より、スメクタイト族の3八面体型のFeスメクタイトの存在が確認された。SEM観察から、高アルカリ水からの沈殿物であるCSHの存在が認められた。これは、スメクタイトと高アルカリ水が共存していることの証拠となり、スメクタイトと高アルカリ水に関するアクティブサイトの発見を強く支持した。SEMを用いたFe型スメクタイトの産状観察と地球化学モデリングを用いた熱力学的考察から、本調査地に認められたFe型スメクタイトは高アルカリ水によって超塩基性の一次鉱物が変質し、生成されたものであることが考えられた。したがって本調査地で認められる反応は、人工バリアからFeが溶出してくることが考えられる処分環境において、セメントからの高アルカリ水が作用するとFe型スメクタイトが生成されるという反応とのアナログ性を持っていることがわかった。また、Fe型スメクタイトが認められた層の上層である、表層水からの沈殿物であるカルサイトから成る層で発見した木片の年代測定をしたところ、約4500年前のものであることがわかった。これは、地質学的タイムスケールにおいて、そのぐらいの時期に高アルカリ水の湧出が始動したことがわかり、処分環境で比較的早い時期にFe型スメクタイトが生成され得ることが示唆された。
本研究は経済産業省資源エネルギー庁からの委託事業である地層処分技術調査等事業のナチュラルアナログ調査の成果の一部である。