15:00 〜 15:15
[HCG25-18] 花崗岩中の破砕帯の活動性評価‐高速増殖原型炉もんじゅ敷地内破砕帯調査を例として‐
キーワード:高速増殖原型炉もんじゅ、破砕帯調査、江若花崗岩
背景:日本原子力研究開発機構の高速増殖原型炉もんじゅ(以下,「もんじゅ」)においては,原子力規制委員会(以下,「規制委員会」)からの指示を受け,もんじゅ敷地内破砕帯の活動性に関する調査を進めてきた。平成26年3月末に「全体とりまとめ報告」を規制委員会に提出した以降も調査を継続して追加データを補強し,もんじゅ敷地内破砕帯に活動的であることを示す証拠は認められないことを示した。
調査概要:もんじゅ敷地のある敦賀半島北部の基盤岩類は白亜紀後期~古第三紀の江若(こうじゃく)花崗岩より構成される。江若花崗岩の年代としては,ジルコンU-Pb年代で68.5±0.7Maの値を得ている。敷地内破砕帯の活動性に関する調査では,原子炉建物基礎岩盤部の破砕帯で最長だったa破砕帯の北方延長方向において剥ぎ取り調査を実施し,そこで確認された複数の破砕帯の切断関係や変位量,破砕帯構造の特徴等を把握した。もんじゅは建設時に地山を削っているため,敷地内破砕帯の活動性評価では,上載地層法が適用できない状況であり,確立された方法論が無いなかで構造地質学や地球年代学等の手法を組み合わせて調査を進めた。
破砕帯の活動性評価:剥ぎ取り箇所においては, ENE-WSW系とNNE-SSW系の2系統(それぞれα系,β系と呼ぶ)の破砕帯を認定し,それらの切断関係から,β系よりもα系が相対的に新しい構造であることを確認した。α系破砕帯は,全体としては左横ずれセンスの幅数cmの粘土脈で,幅は不規則に変化し,粘土細脈が網目状に発達し,延性的に変形している部分が観察される。α系破砕帯に着目して切断関係を精査した結果,約10cmの右ずれ変位を伴う幅1cm程度以下の破砕帯(α-3a1と呼ぶ)を最後に動いた面(最新面)と特定した。このα-3a1破砕帯の変形構造を研磨片や薄片で観察した結果,葉片状カタクレーサイトを構成する黒雲母の塑性的な変形が確認できた。黒雲母の塑性変形は150~250℃程度以上で生じるとされ(Stesky, 1978; Lin, 1999など),剥ぎ取り箇所に見られる最新面以外のα系,β系の破砕帯中にも黒雲母の塑性的な変形が普遍的に観察できる。このことから,敷地内破砕帯は地下数kmの深部高温環境下で形成された古い時代の小規模な地質構造と推定され,最近の地表付近の環境下で活動した痕跡はないと言える。
また,剥ぎ取り箇所では,玄武岩の貫入が見られK-Ar年代で約19Maを示す。玄武岩岩脈の一部は,花崗岩との接触境界のチルドマージンの分布状況等から,既に存在していたα系破砕帯を弱面として部分的に破砕帯に沿って,これを押し開いて貫入したと考えられる。玄武岩岩脈中には,不規則で連続性に乏しい局所的な変形構造が観察でき,複数回の方解石脈の発達が見られる。方解石脈は破砕帯に沿う玄武岩と花崗岩との境界に平行に発達する場合もある。境界部の方解石脈中には高温(150~300℃)での変形を示す変形双晶(typeⅡ;Burkhard,1993)が普遍的に鏡下観察でき,方解石脈自体にはせん断による大きな破壊を受けた痕跡はない。このことからも,方解石脈が高温環境下で形成された以降に,破砕帯に沿う玄武岩と花崗岩との境界は動いていないと言える。玄武岩岩脈中の局所的な変形構造や方解石脈の発達は,玄武岩が貫入してから十分に冷えて固まるまでの過程で生じたものである可能性が考えられる。
破砕帯の活動性評価においては,上載する地層から最新の活動年代を押さえ評価することが一般的である。しかし,上記のように,破砕帯の構造や構成鉱物あるいは破砕帯に沿うまたは横断するような鉱物脈や粘土脈の特徴を詳細に調査し,破砕帯の形成環境(温度条件等)を把握することで,地表付近で繰り返し活動したか否かについて推定が可能な場合がある。今回の敷地内破砕帯調査は,上載地層法が適用できない花崗岩中の破砕帯においても活動性評価が可能なことを示した例と考える。
【引用文献】Stesky, R.M. (1978), Canadian Journal of Earth Sciences, 15, 361-375;Lin, A. (1999), Tectonophysics, 304, 257-273;Burkhard, M. (1993), Journal of Structural Geology, 15, 351-368
調査概要:もんじゅ敷地のある敦賀半島北部の基盤岩類は白亜紀後期~古第三紀の江若(こうじゃく)花崗岩より構成される。江若花崗岩の年代としては,ジルコンU-Pb年代で68.5±0.7Maの値を得ている。敷地内破砕帯の活動性に関する調査では,原子炉建物基礎岩盤部の破砕帯で最長だったa破砕帯の北方延長方向において剥ぎ取り調査を実施し,そこで確認された複数の破砕帯の切断関係や変位量,破砕帯構造の特徴等を把握した。もんじゅは建設時に地山を削っているため,敷地内破砕帯の活動性評価では,上載地層法が適用できない状況であり,確立された方法論が無いなかで構造地質学や地球年代学等の手法を組み合わせて調査を進めた。
破砕帯の活動性評価:剥ぎ取り箇所においては, ENE-WSW系とNNE-SSW系の2系統(それぞれα系,β系と呼ぶ)の破砕帯を認定し,それらの切断関係から,β系よりもα系が相対的に新しい構造であることを確認した。α系破砕帯は,全体としては左横ずれセンスの幅数cmの粘土脈で,幅は不規則に変化し,粘土細脈が網目状に発達し,延性的に変形している部分が観察される。α系破砕帯に着目して切断関係を精査した結果,約10cmの右ずれ変位を伴う幅1cm程度以下の破砕帯(α-3a1と呼ぶ)を最後に動いた面(最新面)と特定した。このα-3a1破砕帯の変形構造を研磨片や薄片で観察した結果,葉片状カタクレーサイトを構成する黒雲母の塑性的な変形が確認できた。黒雲母の塑性変形は150~250℃程度以上で生じるとされ(Stesky, 1978; Lin, 1999など),剥ぎ取り箇所に見られる最新面以外のα系,β系の破砕帯中にも黒雲母の塑性的な変形が普遍的に観察できる。このことから,敷地内破砕帯は地下数kmの深部高温環境下で形成された古い時代の小規模な地質構造と推定され,最近の地表付近の環境下で活動した痕跡はないと言える。
また,剥ぎ取り箇所では,玄武岩の貫入が見られK-Ar年代で約19Maを示す。玄武岩岩脈の一部は,花崗岩との接触境界のチルドマージンの分布状況等から,既に存在していたα系破砕帯を弱面として部分的に破砕帯に沿って,これを押し開いて貫入したと考えられる。玄武岩岩脈中には,不規則で連続性に乏しい局所的な変形構造が観察でき,複数回の方解石脈の発達が見られる。方解石脈は破砕帯に沿う玄武岩と花崗岩との境界に平行に発達する場合もある。境界部の方解石脈中には高温(150~300℃)での変形を示す変形双晶(typeⅡ;Burkhard,1993)が普遍的に鏡下観察でき,方解石脈自体にはせん断による大きな破壊を受けた痕跡はない。このことからも,方解石脈が高温環境下で形成された以降に,破砕帯に沿う玄武岩と花崗岩との境界は動いていないと言える。玄武岩岩脈中の局所的な変形構造や方解石脈の発達は,玄武岩が貫入してから十分に冷えて固まるまでの過程で生じたものである可能性が考えられる。
破砕帯の活動性評価においては,上載する地層から最新の活動年代を押さえ評価することが一般的である。しかし,上記のように,破砕帯の構造や構成鉱物あるいは破砕帯に沿うまたは横断するような鉱物脈や粘土脈の特徴を詳細に調査し,破砕帯の形成環境(温度条件等)を把握することで,地表付近で繰り返し活動したか否かについて推定が可能な場合がある。今回の敷地内破砕帯調査は,上載地層法が適用できない花崗岩中の破砕帯においても活動性評価が可能なことを示した例と考える。
【引用文献】Stesky, R.M. (1978), Canadian Journal of Earth Sciences, 15, 361-375;Lin, A. (1999), Tectonophysics, 304, 257-273;Burkhard, M. (1993), Journal of Structural Geology, 15, 351-368