日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] 原子力と地球惑星科学

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、佐藤 努(北海道大学工学研究院)、吉田 英一(名古屋大学博物館)

17:15 〜 18:30

[HCG25-P04] 地質環境長期安定性評価確証技術開発(4)地殻変動予測技術

*渡部 豪1奥山 哲1浅森 浩一1梅田 浩司1 (1.日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)

キーワード:地層処分、長期間のプレート間相互作用、地質学的ひずみ速度、地殻変動シミュレーション、粘弾性不均質

高レベル放射性廃棄物の地層処分における数万~数十万年の長期間の地質環境のモデル化は,過去の自然現象の偏在性や変動傾向に基づき,将来への外挿が基本となる。しかし,地形・地質学的に推測される過去のイベントや変動パターンは,年代や地域によって識別できる分解能が異なり,将来の変化に対する外挿結果に纏わる不確かさも様々である。日本列島について,この手法の適応性について考えてみると,日本列島は,プレート沈み込みにより長期にわたって短縮変形を受け,複雑な地形・地質構造を形成している。これは,時間スケールの異なる変動の重ね合わせであり,長期間の変動を推定する際,可能な限り個々の変動の時間変化を考慮する必要がある。ただ,全ての変動について時間変化を追うことは現実的に不可能である。したがって,より現実的にプレート間相互作用をモデル化し,長期間の地殻変動を推定できる手法を構築できれば,外挿による地殻変動予測に対する不確かさの軽減に繋がると考えられる。そこで本研究では,地質学的データから推定されるひずみ速度分布より,長期間のプレート間相互作用をモデル化し,地球物理学的観測から推定される地殻の粘弾性不均質を考慮した数値シミュレーションに応用することで,長期間の地殻変動を推定する手法を構築する。このうち本報告では,(1)活断層データを用いた地質学的ひずみ速度の推定及び(2)粘弾性不均質を考慮したシミュレーションについて報告する。
(1)活断層データを用いた地質学的ひずみ速度の推定
産業技術総合研究所活断層データベースに掲載される活断層のうち418セグメントを対象とし,断層パラメータより1000年間の地震モーメント・モーメントテンソル密度を求め,Kostrov (1974)[1]の定式に従い,概ね80×80 km,深さ15 kmの領域に対して,水平方向のひずみ速度を推定した。
その結果,日本列島における大局的なひずみ速度の特徴として,太平洋・フィリピン海プレートの沈み込み方向への短縮が卓越することが明らかになった。中部日本を含む西南日本においては,概ね南北~北東-南西方向の伸長が,北陸~中部地方内陸部では,新潟-神戸歪集中帯付近で大きなひずみ速度が推定され,牛首,跡津川,高山・大原断層帯を含む領域では,短縮のみでなく顕著な伸長(N96.8~97.4°E方向に3.0~5.2×10-8 /yrの短縮,N6.8~7.4°E方向に1.5~2.6×10-8 /yrの伸長)も認められた。四国地方では,N108.0~124.7°E方向に1.5~2.7×10-8 /yrの短縮,N18.0~34.7°E方向に1.5~2.6×10-8 /yrの伸長が示された。九州地方では,九州北部と島原-別府地溝帯の東部と西部に活断層が分布するが,平均変位速度が小さいために大きなひずみ速度は得られていないものの,島原-別府地溝帯内の領域で,N4.5~9.6°E方向に9.6×10-9~1.4×10-8 /yrの伸長ひずみ速度が得られた。
以上の結果は,長期間のプレート間相互作用に起因すると考えられ,数万年以上の時間スケールを対象とした地殻変動シミュレーションを行う場合,これらの地域性を考慮することが重要であると考えられる。
(2)粘弾性不均質を考慮したシミュレーション
2011年東北地方太平洋沖地震(東北地震)の発生後,茨城・福島県境付近の地殻浅部において,正断層型の群発地震活動が活発化した。東北地震前の応力テンソルインバージョンでは,深さ15 km以浅で正断層型,それ以深で逆断層型を示し,浅部では東北地震前から伸張場であった(Yoshida et al., 2015[2])。また,この領域では局所的な隆起も報告されており,特異なテクトニクスであることを示唆している。これに関し,地震波トモグラフィーやMT法の結果,群発地震震源域下に流体の存在を示唆する低地震波速度・低比抵抗域が推定されており(Umeda et al., 2015[3]),この地域の地殻変動との関連性が示唆される。ここでは,地殻変動への地殻流体の寄与について検討するため,低比抵抗域(流体分布域)をMaxwell粘弾性体として表現した二次元有限要素法による地殻変動シミュレーションを実施した。
得られた100年後の鉛直変位では,流体分布域の上部で隆起が生じ,測地学的に観測された鉛直変位パターン(Suwa et al., 2006[4])と調和的な傾向を示す。また,水平応力は流体分布域の直上で圧縮,それ以浅では伸張応力を示し,Yoshida et al. (2015)[2] の結果と調和的であった。これらは,流体分布域の変形が周囲より大きく,その上部にある地殻のみで圧縮応力を支えた結果,その部分で座屈が生じることに起因すると考えられる。以上の結果は,地殻流体が周辺の地殻変動に密接に関与しており,シミュレーションにおいて地殻の粘弾性不均質を考慮することが重要であることを示唆する。
[1] Kostrov (1974): Seismic moment and energy of earthquakes, and seismic flow of rock, Izvestiya, Physics of the Solid Earth, vol.1, 1974, pp.23-40.
[2] Yoshida et al. (2015): Spatial variation of stress orientations in NE Japan revealed by dense seismic observations, Tectonophysics, vol.647-648, 2015, pp.63-72.
[3] Umeda et al. (2015): Triggering of earthquake swarms following the 2011 Tohoku megathrust earthquake, Journal of Geophysical Research, vol.120, 2015, pp.2279-2291.
[4] Suwa et al. (2006): Interplate coupling beneath NE Japan inferred from three dimensional displacement field, Journal of Geophysical Research, vol.111, 2006, doi:101029/2004JB003203.
本報告は、経済産業省資源エネルギー庁委託事業「地層処分技術調査等事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」の成果の一部である。