日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] 原子力と地球惑星科学

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、佐藤 努(北海道大学工学研究院)、吉田 英一(名古屋大学博物館)

17:15 〜 18:30

[HCG25-P05] 地質環境長期安定性評価確証技術開発 (5)地下水涵養量推定技術

*竹内 竜史1尾上 博則1安江 健一1 (1.日本原子力研究開発機構)

キーワード:高レベル放射性廃棄物、地層処分、地下水涵養量、気候変化、地形変化

はじめに
高レベル放射性廃棄物の地層処分で考慮する数万年以上に及ぶ時間スケールでは、気候変動や隆起・侵食による地形変化などにより地表水文環境に変化が生じる。特に、降水量、蒸発散量、河川流量の変化は、地下深部の地下水流動の上部境界条件となる地下水涵養量を変化させるため、長期的な地表水文環境の変化を見込んだ地下水涵養量の推定が重要となる。本技術開発では、山間部を対象として、過去から現在における気候変動と地形変化を考慮した地下水涵養量の推定を実施した。

地下水涵養量の推定方法
地下水涵養量は水収支法により推定する。水収支法を用いるためには、地表水文要素である降水量、蒸発散量および河川流量の推定が必要となる。
既往研究で報告された既存の観測データを整理した結果から、降水量と蒸発散量は気温に対して概ね正の相関関係を示すことが確認されている1)。したがって、過去の気候から気温を推定することにより、降水量と蒸発散量を算出することができる。河川流量については、流域の地形の特徴に基づいて算出される河川流量に関する指標(流出指標)と同流域の河川流量データ、流域の降水量データから、降水量に対する河川流量の割合(流出率)を算出する方法2)を適用する。

山間部における適用例
本手法の適用性を確認するため、中部地方南部の比較的低標高で小起伏な山地~丘陵を流域とする庄内川(流域面積約340km2)を例に、地下水涵養量を推定した。対象とする時間断面は、対象地域の地形モデルが作成されている100万年前、45万年前、14万年前および現在とし3)、各時間断面の地形及び気候条件(氷期と間氷期)を考慮した。
対象地域における過去30万年の気温は、寒冷な時期と温暖な時期で約8~10℃の気温差で推移しており4)、この結果を基に、現在の平均気温を基準として氷期、間氷期の気温を算出した。
推定された過去の気温に対し、降水量は、太平洋沿岸、北アジア、北ヨーロッパ、北アメリカの観測データ(気温と降水量)1)から得られる相関式、蒸発散量は気温と実蒸発散量の関係1)に東濃地域の観測結果5)を考慮した関係式を用いて推定した。
河川流量は、数値標高モデル(DEM)で表現される現在の地形と過去の地形に共通する流出指標を求め、現在の地形の流出指標と観測結果から得られる流出率との相関式に過去の地形の流出指標を代入し算出した。
これらの結果、観測データ等に基づく現在の地形で間氷期の気候条件での地下水涵養量118mm/年に対し、各時間断面の地下水涵養量は45万年前(氷期)118~172%、45万年前(間氷期)147~273%、14万年前(氷期)81~135%、14万年前(間氷期)88~196%と推定された。なお、現在の地形で氷期の気候条件下では58~72%となった。過去の氷期においては、現在の間氷期の気候条件よりも降水量や蒸発散量が減少するにもかかわらず、地下水涵養量は現在より増加する結果となった。これは、地形変化に伴う河川流量の変化が地下水涵養量の変化に大きな影響を与えることを示唆している。
一方で、起伏が乏しく平坦な地形が推定された100万年前については、地形の特徴に基づく河川流量の推定が困難であった。平坦な地形に対応した流域抽出手法の改良と平野部における本手法の適用性の確認が今後の課題である。

本報告は、経済産業省資源エネルギー庁委託事業「地層処分技術調査等事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」の成果の一部である。

引用文献
1) (独)日本原子力研究開発機構:平成25年度地層処分技術調査等事業地質環境長期安定性評価確証技術開発報告書、経済産業省資源エネルギー庁、2014、pp.166-169.
2) (独)日本原子力研究開発機構:平成26年度地層処分技術調査等事業地質環境長期安定性評価確証技術開発報告書、経済産業省資源エネルギー庁、2015、pp.160-177.
3) 尾上博則ほか:地質環境長期安定性評価確証技術開発 地質環境長期変動モデル(東濃地域)、日本地球惑星科学連合2016大会、2016年5月、千葉、2016.
4) 佐々木俊法ほか:東濃地方内陸小盆地堆積物の分析による過去30万年間の古気候変動、 第四紀研究、 vol.45、 2006、 pp.275-286.
5) 上野哲郎、竹内竜史:超深地層研究所計画における表層水理観測データ集-2014年度-、日本原子力研究開発機構、JAEA Data/Code2015-031、2016.