日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] 原子力と地球惑星科学

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、佐藤 努(北海道大学工学研究院)、吉田 英一(名古屋大学博物館)

17:15 〜 18:30

[HCG25-P06] 地質環境長期安定性評価確証技術開発 (6)炭酸塩鉱物測定技術

*渡邊 隆広1國分 陽子1村上 裕晃1横山 立憲1雨宮 浩樹1水野 崇1久保田 満1岩月 輝希1 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)

キーワード:炭酸塩鉱物、放射年代測定、酸化還元電位、LA-ICP質量分析計、地質環境長期安定性、地層処分

はじめに
地質環境の長期安定性を評価するためには、過去の地質環境の変動幅を把握し、その結果に基づいて将来の変動幅を推定するといった手法の構築が必要である。このためには、過去の地下水の流動特性や化学的条件(酸化還元電位やpH)を把握することが必要である1)。これまでに地下水の化学組成に基づいて、地下水の滞留時間を評価する試みが行われてきたが2)、過去の地下水の化学的条件の変遷を連続的に把握することは困難であった。一方、地下水から沈殿した炭酸塩鉱物は、沈殿当時の年代と化学的状態を示す成分(例えばウラン、鉛、鉄や希土類元素の相対量など)を保持している可能性が高い 3) 4)。加えて、炭酸塩鉱物は環境中に普遍的に存在していることから、汎用的な古環境指標として有効と考えられる。岩盤中の割れ目を充填する炭酸塩鉱物の年代測定と化学分析を実施することにより、化学的状態の長期変遷を推定することが可能になると期待される。
炭酸塩鉱物のウラン-鉛(以下、U-Pb)年代測定や化学分析は、これまでに全岩溶液試料を対象とした測定が進められてきたが5)、炭酸塩鉱物の結晶成長を反映した累帯構造に着目し1)、局所領域をターゲットとした分析手法を確立することにより、位置ごとの元素・同位体情報を得ることが可能となる。従って、炭酸塩鉱物を古環境指標として活用するためには、局所領域を数十マイクロメートル以下で分析可能なレーザーアブレーション付き誘導結合プラズマ質量分析計(LA-ICP質量分析計)が有効と考えられる。本技術開発においては、日本原子力研究開発機構 土岐地球年代学研究所に導入したLA-ICP質量分析計を用いて、炭酸塩鉱物の局所領域のU-Pb年代測定について技術基盤の構築を進めた。さらに、過去の化学的状態を推定するため、炭酸塩鉱物と地下水間の鉄の分配係数をもとにした酸化還元電位推定手法の適用性を検討した。
技術開発概要とこれまでの主な成果
(1) LA-ICP質量分析法による年代測定技術の開発
炭酸塩鉱物の局所領域同位体分析においては、均質性の担保された炭酸塩鉱物から成る標準試料の選定や低濃度なU、 Pbの元素比測定と高精度なPb同位体比測定が求められる。これらの課題に対応するため、本技術開発では天然の炭酸塩鉱物から標準試料候補の選定を開始した。また、均質性の確認と局所領域分析における分析点の選定には、2次元分布分析(イメージング)を採用した結果、視覚的にも元素・同位体分布を把握することが可能となった1)。Pb同位体分析においては、存在度の低いPb同位体の検出にマルチイオンカウンティング方式と高増幅率アンプを備えたマルチファラデーカップ方式を採用し、高精度Pb同位体比測定を実現した1)
(2) 酸化還元電位推定技術の構築
これまでに、地下水から炭酸塩鉱物が沈殿する際に取り込まれる鉄の量から、過去の地下水の酸化還元電位を理論的に計算する試みが進められている3) 4)。本技術開発ではICP質量分析計を用いて天然の炭酸塩鉱物中の鉄含有量を測定し、報告されている理論式3)から得られた計算値の妥当性を評価した。岐阜県東濃地域のボーリング試料(DH5、6、7、8、12)、島根県西部および山梨県東部の石灰華試料を用いた。DH6、7、8試料では鉄含有量から得られた酸化還元電位の計算値と、現場で実測した地下水の値がおおよそ一致した。DH7では、計算値が標準水素電極を基準としたORPS.H.E.で約-450mV、実測値が約-400mVであった。しかし、DH5、12および石灰華試料では実測値よりも100mV以上異なる値を示した。計算値と実測値との差異については、酸化的な表層水の混入などによる影響が示唆される。従って、今後は理論式が適用可能な条件と、適用不可となる条件を明らかにすることが必要となる。
本報告は、経済産業省資源エネルギー庁委託事業「地層処分技術調査等事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」の成果の一部である。
引用文献
1) 日本原子力研究開発機構、 平成26年度 地層処分技術調査等事業 地質環境長期安定性評価確証技術開発報告書、 2015、 229p.
2) Iwatsuki et al.、 Appl. Geochem.、 vol.17、 2002、 1241-1257.
3) Arthur et al.、 Geochem. Explor. Environ. Anal.、 vol.6、 2006、 pp.33-48.
4) 水野・岩月、 地球化学、 vol.40、 2006、 pp.33-45.
5) Becker et al.、 Earth Planet. Sci. Lett.、 vol.203、 2002、 pp.681-689.