17:15 〜 18:30
[HCG25-P07] 放射性炭素(14C)濃度に基づく深部地下水の流動状態の推定
キーワード:炭素同位体、地下水、流動状態
はじめに
地下水流動は地下圏における物質循環を考察する上で欠くことのできない情報の一つであり、水理学的な数値解析や化学的指標に基づく滞留時間の推定などの評価手法を併用することにより確度の高い評価が可能となる。日本原子力開発研究機構の瑞浪超深地層研究所においては、これまでに深度500 mまでの研究坑道の掘削を通して、地下水流動や地下水の化学特性を把握するとともに大規模地下施設が周辺の地下水に与える影響の評価を行ってきた。本研究では、新たに地下水中の14C濃度に関わるデータを取得し、その深度分布や水理地質構造などとの関連を基に地下水の滞留状態について考察した。
方法
地上から深度約100~170 mの堆積岩中に掘削されたボーリング孔および深度200 m~500 mの研究坑道から花崗岩中に掘削されたボーリング孔において、各深度の地下水を大気に触れないように採取した。なお、花崗岩においては、比較的岩盤の透水性が高い領域と透水性の低い領域に掘削されたボーリング孔の地下水をそれぞれ採取した。採取試料の主要成分分析、物理化学パラメータ測定を行うとともに、溶存無機炭素を沈殿法またはガス化法により回収した。溶存無機炭素の安定同位体比(δ13C値)と14C濃度を安定同位体比質量分析装置、加速器質量分析装置で測定した。
結果・考察
堆積岩、花崗岩の地下水中の14C濃度を測定した結果、それぞれの値は3~100 pMC*、2~31 pMCと求められた。堆積岩直下の花崗岩中(深度約200 m)の地下水の14C濃度は、堆積岩深部(深度140 m)の14C濃度より高く、堆積岩深部の地下水に比べて若い年代の地下水が、堆積岩と花崗岩の不整合面に沿って流入している可能性が考えられた。花崗岩中の透水性が高い領域の14C濃度はばらつきが大きく、深度200 m ~400 mで約4~31 pMCであった。一方、花崗岩中の透水性が低い領域の14C濃度は、深度300mで約6~25pMC、深度500mで約2~16pMCとなり、透水性が高い領域に比べ14C濃度が低く年代が古い傾向を示した。透水性が高い領域では、研究坑道への地下水の引き込みにより鉛直方向の地下水流動が大きくなっていると推察された。また、透水性が低い領域では、地下水の流動性が小さく相対的に古い地下水が存在すると考えられた。
14C濃度とδ13C値の関係をみると、14C濃度が小さくなるほどδ13C値が高くなる傾向を示した。地下水中の溶存無機炭素のδ13C値は、岩石中の炭酸塩鉱物が地下水中に溶解し鉱物由来の無機炭素が加わるか、δ13C値の異なる地下水が混合することにより変化すると推察される。炭酸塩鉱物由来の無機炭素は通常、5万年以上経過して14Cを含まない“デッドカーボン”であるため、鉱物由来の無機炭素が地下水に加わった場合はデッドカーボンの混入による14C濃度の変化を補正する必要がある。炭酸塩鉱物の溶解については、各深度の地下水のpH、カルシウムイオン濃度、溶存無機炭酸濃度に基づいて、地下水に対する飽和指数を算出した結果、花崗岩領域の深度200 m~500 mの地下水は概ね炭酸塩鉱物に対し飽和~過飽和(炭酸カルシウムが溶解しない条件)にあると判断された。そのため、14C濃度とδ13C値の相関は、それらの値の異なる地下水の混合を反映している可能性が考えられた。
今後は、これらの知見を勘案した上で、14C濃度を基に地下水の滞留時間を推定し、地下水流動解析に反映させていく。
* pMC:現代の大気中の14C濃度を基準として試料中の14C濃度をパーセンテージで表した単位
地下水流動は地下圏における物質循環を考察する上で欠くことのできない情報の一つであり、水理学的な数値解析や化学的指標に基づく滞留時間の推定などの評価手法を併用することにより確度の高い評価が可能となる。日本原子力開発研究機構の瑞浪超深地層研究所においては、これまでに深度500 mまでの研究坑道の掘削を通して、地下水流動や地下水の化学特性を把握するとともに大規模地下施設が周辺の地下水に与える影響の評価を行ってきた。本研究では、新たに地下水中の14C濃度に関わるデータを取得し、その深度分布や水理地質構造などとの関連を基に地下水の滞留状態について考察した。
方法
地上から深度約100~170 mの堆積岩中に掘削されたボーリング孔および深度200 m~500 mの研究坑道から花崗岩中に掘削されたボーリング孔において、各深度の地下水を大気に触れないように採取した。なお、花崗岩においては、比較的岩盤の透水性が高い領域と透水性の低い領域に掘削されたボーリング孔の地下水をそれぞれ採取した。採取試料の主要成分分析、物理化学パラメータ測定を行うとともに、溶存無機炭素を沈殿法またはガス化法により回収した。溶存無機炭素の安定同位体比(δ13C値)と14C濃度を安定同位体比質量分析装置、加速器質量分析装置で測定した。
結果・考察
堆積岩、花崗岩の地下水中の14C濃度を測定した結果、それぞれの値は3~100 pMC*、2~31 pMCと求められた。堆積岩直下の花崗岩中(深度約200 m)の地下水の14C濃度は、堆積岩深部(深度140 m)の14C濃度より高く、堆積岩深部の地下水に比べて若い年代の地下水が、堆積岩と花崗岩の不整合面に沿って流入している可能性が考えられた。花崗岩中の透水性が高い領域の14C濃度はばらつきが大きく、深度200 m ~400 mで約4~31 pMCであった。一方、花崗岩中の透水性が低い領域の14C濃度は、深度300mで約6~25pMC、深度500mで約2~16pMCとなり、透水性が高い領域に比べ14C濃度が低く年代が古い傾向を示した。透水性が高い領域では、研究坑道への地下水の引き込みにより鉛直方向の地下水流動が大きくなっていると推察された。また、透水性が低い領域では、地下水の流動性が小さく相対的に古い地下水が存在すると考えられた。
14C濃度とδ13C値の関係をみると、14C濃度が小さくなるほどδ13C値が高くなる傾向を示した。地下水中の溶存無機炭素のδ13C値は、岩石中の炭酸塩鉱物が地下水中に溶解し鉱物由来の無機炭素が加わるか、δ13C値の異なる地下水が混合することにより変化すると推察される。炭酸塩鉱物由来の無機炭素は通常、5万年以上経過して14Cを含まない“デッドカーボン”であるため、鉱物由来の無機炭素が地下水に加わった場合はデッドカーボンの混入による14C濃度の変化を補正する必要がある。炭酸塩鉱物の溶解については、各深度の地下水のpH、カルシウムイオン濃度、溶存無機炭酸濃度に基づいて、地下水に対する飽和指数を算出した結果、花崗岩領域の深度200 m~500 mの地下水は概ね炭酸塩鉱物に対し飽和~過飽和(炭酸カルシウムが溶解しない条件)にあると判断された。そのため、14C濃度とδ13C値の相関は、それらの値の異なる地下水の混合を反映している可能性が考えられた。
今後は、これらの知見を勘案した上で、14C濃度を基に地下水の滞留時間を推定し、地下水流動解析に反映させていく。
* pMC:現代の大気中の14C濃度を基準として試料中の14C濃度をパーセンテージで表した単位