日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG26] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、清家 弘治(東京大学大気海洋研究所)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、池田 昌之(静岡大学)

17:15 〜 18:30

[HCG26-P06] 白保竿根田原洞穴遺跡から得られた石筍の年縞層厚と蛍光強度の記録

*佐々木 華1大西 由梨1石原 与四郎2吉村 和久3 (1.福岡大学大学院 理学研究科、2.福岡大学 理学部、3.九州大学大学院 理学研究院)

キーワード:年縞、石筍、時系列解析

石筍の地球化学的分析からは酸素同位体比やMg/Caの変動など,様々な古環境のプロキシとなる情報が得られている.このような石筍には紫外線を照射することによって蛍光する年縞が認められることがあり,これらは古環境解析では年代のプロキシとしても用いられる.一方,石筍の年縞の層厚変化は形成時の降水量と結び付けられることが多いが(Burns et al., 2002など),その過程についてははっきりしてない点も多い.また,年縞を形成する蛍光強度も変化するが,これが何を意味するのかもほとんど検討されていない.本研究では,沖縄県石垣市の白保竿根田原洞穴遺跡から得られた石筍に縞状堆積物の自動認定方法(Sasaki et al., 2015)を適用し,年縞層厚と相対的蛍光強度の変化を得た.そして,その時系列に関して,どのような環境が記録されうるのかを検討した.
本研究の対象である白保竿根田原洞穴遺跡は石垣島の東海岸に位置し,新石垣空港付近にある.この周辺では,琉球石灰岩の溶食によって形成された東西に延びる鍾乳洞が分布し,本洞穴遺跡もその一部である.白保竿根田原洞穴遺跡に認められる洞穴堆積物からは,多くの人骨や動物化石などが得られている(Nakagawa et al., 2010など).
得られた石筍を解析した結果,約600年分の年縞が認められることが明らかになった.年縞層厚の平均は約0.35 mmと本州の洞窟よりもやや厚い傾向がある.層厚の時系列では,1540-1580年,1790-1810年付近で著しい減少が認められた.石筍の形成は主として滴下水の滴下間隔,洞内の気温,二酸化炭素分圧に依存する滴下水中の方解石に関する過飽和の程度に影響される.洞内の気温は年間を通じてほぼ一定であるため,洞内大気の循環に影響される二酸化炭素分圧が方解石過飽和の程度を主に支配していると考えられる.したがって,層厚が著しく減少した時期は,たとえば降水量の低下もしくは洞内大気の循環の減少によって石筍の成長が低下した可能性が示唆される.一方,蛍光の相対的強度は1480-1500年,1530-1540年,1880-1890年,1960-1990年で明瞭な低下が認められた.石筍の年縞の蛍光強度は主に年縞の形成速度と滴下水中のフルボ酸含有量に影響を受けると考えられている.形成速度が大きく,滴下水中のフルボ酸含有量が少ない程,蛍光強度は弱い.そのため,1480-1500年,1530-1540年,1880-1890年,1960-1990年の蛍光強度の大きく低下した時期は,このような影響を受けた可能性が示唆される.一方,1480-1500年は年縞層厚も共に減少し,特にフルボ酸の量の低下が示唆される.本講演では,このようにして得られた年縞の形成速度やフルボ酸の供給量の指標(蛍光強度)は,古環境プロキシとして何を意味しているのか検討した結果を報告する.
引用文献
Burns et al., 2002, Journal of Geophysical Research, 107, 4434-4442; Nakagawa et al., 2010, Anthropological Science, 118, 173-183; Sasaki et al., 2015, Journal of the Sedimentological Society of Japan, 74, 31-43