日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG26] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、清家 弘治(東京大学大気海洋研究所)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、池田 昌之(静岡大学)

17:15 〜 18:30

[HCG26-P08] 平衡指数モデルで説明する海岸線自動後退

*武藤 鉄司1成瀬 元2 (1.長崎大学環境科学部、2.京都大学理学研究科)

キーワード:デルタ、海岸線自動後退、平衡指数、海水準上昇、非平衡応答

適当に長い時間スケールで観ると,デルタ分流チャネル(distributary channels)の動態はデルタ前縁の堆積盆水深(basin water depth)の影響を強く受ける.水槽を用いたこれまでのモデル実験からは,堆積盆水深が大きいほど分流チャネルの埋積速度と側方移動速度は小さくなる.デルタが前進できないほどに大きな堆積盆水深のもとであれば分流チャネルは平衡状態(grade)を実現し,デルタ平原上の特定の位置に固定されて側方移動しなくなる.このような堆積盆水深の効果は,平衡指数(Gindex: grade index)を用いて定量的に示すことができる.堆積盆水深h,デルタ平原の水平半径x, デルタ平原の沖積勾配Saとし,無次元水深をh*=h/Saxで与え,さらに一部の水槽実験で採用された特殊な基盤条件,すなわちデルタの背後が垂直壁で堆積盆底が水平である場合を仮定すると,Gindex=(1+2h*+Sa*h*2)-1で示される.ただし,Sa*Saをデルタフォーセット勾配Sfで除した値である(Sa*=Sa/Sf).Gindexは0から1までの値をとり,Gindex=0ならば河川平衡,Gindex=1ならば完全なる陸上埋積に対応する.Gindexはデルタの成長に伴って変遷する変数である.
この平衡指数モデルは静止海水準を想定しているが,これを海水準が一定速度で上昇していく場合へ拡張する.供給されたセディメントがすべてデルタに堆積し,デルタの角度パラメータが常に一定に保たれる条件のもとであれば,デルタ体積V(x,h)の時間微分は系外上流域からのセディメント供給速度Qsに等しい.この関係を基本の式として,基準面上昇期のデルタ海岸線の無次元前進速度Rpro*を計算すると,Rpro*=(1−AB*)Gindex という関係式に行き着く.ただし,AB*はオート層序学における三次元長さスケールL3Dを用いて無次元化したデルタ底面積である.この式は,成長していくデルタの無次元底面積がAB*を越えるときが海岸線自動後退の開始に他ならないことを示している.同様に,デルタ陸上部分の無次元埋積速度Ragg*は,Ragg*A*+(1−AB*)Gindex で表すことができる(A*L3Dで無次元化したデルタ平原の水平面積).自動後退する海岸線が陸側基盤に到達すると沖積部分は消失し,供給されるセディメントのすべてが水没したデルタの水中斜面に堆積する(オートドロウニング).このとき,Gindex=0かつA*=0でもあるから,当然Ragg*=0となる.
以上の考察から,海水準上昇期のデルタにおける非平衡応答の形態の一つである自動後退〜オートドロウニング系列は平衡指数と密接に関わることがうかがえる.同系列がデルタのサイズの累進的増大とデルタ前縁の堆積盆水深の増大(i.e. 海水準上昇)に支配される現象であることを考えても,平衡指数の関わりは明らかである。平衡指数は自動後退〜オートドロウニング系列の生起に,従来とは別の角度から理論的な根拠を与える.