17:15 〜 18:30
[HCG26-P10] 関田山脈東部に発達する更新世巨大山体崩壊群
キーワード:岩盤崩壊、巨大崩壊、関田山脈、魚沼層
はじめに
関田山脈は新潟-長野の県境に位置し、標高1000~1300m、第四系から構成されており、大規模な崩壊地形が数多くあることが知られている。本報告は、関田山脈の新潟県側に発達する更新世の大規模崩壊について報告する。
地形概要
菱ヶ岳以東の関田山脈東部は、菱ヶ岳(1129.2m)、三方岳(1138.5m)、天水山(1088m)と続く平頂峰をなすが東へと徐々に高度を下げる。菱ヶ岳-三方岳間に位置する野々海池周辺は関田山脈中最も広く小起伏平坦面が分布し、野々海池の伸長方向には現在も湿地が点在する。一方、関田山脈の北、新潟県側は比高150~400mの急崖が連なって発達しており、この急崖に続いて北側には菖蒲高原、渋海川上流域中原周辺の平原、大厳寺高原などの小起伏平坦面などが広がっている。
地質概要
関田山脈稜線から南の信濃川までの山地斜面には後期鮮新世~後期更新世とされる魚沼層火山岩類が広く分布するが、この稜線より北側の新潟県側には魚沼層の砂岩、シルト岩などの堆積岩類が広く分布する(竹内ほか, 2000)。更に北方へ向かうに従いより下位の地層が分布し、稜線から約4km北には後期中新世の松之山ドームが位置する。
巨大崩壊斜面の地形地質
2014年10月にALS70システムによりLidar計測を実施した。Lidarデータよりグリッドセルサイズ1mのデータを作成し、解析に用いた。
本報告では、菖蒲高原を形成した大規模崩壊を野々海崩壊、渋海川上流域の小起伏平坦面を形成した大規模崩壊を天水崩壊と称し、この両崩壊について報告する。
1)野々海崩壊
野々海峠付近を滑落崖頂部(標高1085~1090m)として、比高約150mの滑落崖と幅約2,000mに達する滑落幅を有する。崩壊による土砂堆積面を確認されるのは現在の菖蒲高原の面で、滑落崖頂部から現在確認した堆積物末端までの水平距離は約2,700mである。他の土砂堆積部は崩壊後の変動や浸食等により山地が深く穿たれたため断片的に推定または確認できるに過ぎない。現在確認される堆積物の厚さは最大50m程度、平均的には15~20m程度と推定される。
2)天水崩壊
野々海池北側~三方岳~天水山付近を滑落崖頂部(標高1080~1130m)として、比高約200~400mの滑落崖と約2,500mに達する滑落幅を有する。崩壊による土砂堆積面を確認されるのは現在の渋海川上流、中原集落周辺およびその上流域で、流山を含む小起伏平坦面として確認される。滑落崖頂部から現在確認した堆積物末端までの水平距離は約4,500mである。地形的特徴から数回の大きな崩壊イベントを経て現在のような堆積面形状になったと推定される。現在確認できる堆積物の厚さは平均的には15~30m程度と推定される。天水崩壊による堆積物を被覆するテフラはまだ確認できていない。
3)崩壊堆積物
崩壊堆積物調査から、初期にシルト岩の崩積土を、その後安山岩質火山岩類を主体とした崩積土を生み出したイベントに移行したと考えられる。今のところシルト岩からなる崩壊堆積物は天水崩壊による堆積域に3箇所で確認されており、安山岩質火山岩類を主体とした崩積土の下位層として古土壌を挟んで直接確認された。この堆積物は直径数cm程度の角礫状シルト岩が密にパックされているのが特徴的であり、地震による崩壊堆積物の性状に酷似する。後者の安山岩質火山岩類の堆積物の特徴は、①最大径3mに達する安山岩の角礫を多く含んだ堆積物で堆積時に水を伴ったと思われる堆積構造が見られない、②含まれる礫には、安山岩の他にシルト岩、砂岩、凝灰岩などがあり、クサレ礫を含む、③マトリックスは、概ね凝灰質~砂混じりシルト質で、新鮮部では青みがかった灰色~青緑色がかった灰色、である。
等摩擦係数(H/L)は、野々海崩壊0.18、天水崩壊0.14となり、Ui(1983)の分類ではVolcanic dry avalancheとNonvolcanic dry avalancheの中間的な値を示す。
4)巨大崩壊後背地及び滑落崖周辺の地形的特徴
巨大崩壊後背地、すなわち稜線より信濃川に至る山腹斜面は、久保田ほか(2014)がサギング地形とした斜面であるが、巨大崩壊滑落崖周辺には多くの小崖、谷状に延びる大小の陥没状地形を確認される。多くの小崖は南落ちの変位を示しているのが特徴的である。また、陥没地形の中心軸方向やリニアメントは関田山脈の方向や魚沼層の走行とは斜交し西側ほど大きく開き約45度に達する。
まとめ
関田山脈北側で発生した巨大崩壊は、現在の主稜線を構成する魚沼層分布域で発生したものであり、降水などによる土石流のように水を介在したものではないと推定される。また、稜線南側のサギング地形の形成やこの地域より東側山地に発達する巨大崩壊や山地変形とも関連する山体形成に関わる大きなイベントと考えられる。
参考文献
久保田ほか(2014)新潟・長野県境関田山脈南麓のサギング地形とその地質的要因,地学団体研究会専報,60,143-160.
竹内ほか(2000)松之山温泉地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,76p.
Ui,T.(1983)Volcanic dry avalanche deposits.Jour.Volcanol.Geotherm.Res.,18,135-150.
関田山脈は新潟-長野の県境に位置し、標高1000~1300m、第四系から構成されており、大規模な崩壊地形が数多くあることが知られている。本報告は、関田山脈の新潟県側に発達する更新世の大規模崩壊について報告する。
地形概要
菱ヶ岳以東の関田山脈東部は、菱ヶ岳(1129.2m)、三方岳(1138.5m)、天水山(1088m)と続く平頂峰をなすが東へと徐々に高度を下げる。菱ヶ岳-三方岳間に位置する野々海池周辺は関田山脈中最も広く小起伏平坦面が分布し、野々海池の伸長方向には現在も湿地が点在する。一方、関田山脈の北、新潟県側は比高150~400mの急崖が連なって発達しており、この急崖に続いて北側には菖蒲高原、渋海川上流域中原周辺の平原、大厳寺高原などの小起伏平坦面などが広がっている。
地質概要
関田山脈稜線から南の信濃川までの山地斜面には後期鮮新世~後期更新世とされる魚沼層火山岩類が広く分布するが、この稜線より北側の新潟県側には魚沼層の砂岩、シルト岩などの堆積岩類が広く分布する(竹内ほか, 2000)。更に北方へ向かうに従いより下位の地層が分布し、稜線から約4km北には後期中新世の松之山ドームが位置する。
巨大崩壊斜面の地形地質
2014年10月にALS70システムによりLidar計測を実施した。Lidarデータよりグリッドセルサイズ1mのデータを作成し、解析に用いた。
本報告では、菖蒲高原を形成した大規模崩壊を野々海崩壊、渋海川上流域の小起伏平坦面を形成した大規模崩壊を天水崩壊と称し、この両崩壊について報告する。
1)野々海崩壊
野々海峠付近を滑落崖頂部(標高1085~1090m)として、比高約150mの滑落崖と幅約2,000mに達する滑落幅を有する。崩壊による土砂堆積面を確認されるのは現在の菖蒲高原の面で、滑落崖頂部から現在確認した堆積物末端までの水平距離は約2,700mである。他の土砂堆積部は崩壊後の変動や浸食等により山地が深く穿たれたため断片的に推定または確認できるに過ぎない。現在確認される堆積物の厚さは最大50m程度、平均的には15~20m程度と推定される。
2)天水崩壊
野々海池北側~三方岳~天水山付近を滑落崖頂部(標高1080~1130m)として、比高約200~400mの滑落崖と約2,500mに達する滑落幅を有する。崩壊による土砂堆積面を確認されるのは現在の渋海川上流、中原集落周辺およびその上流域で、流山を含む小起伏平坦面として確認される。滑落崖頂部から現在確認した堆積物末端までの水平距離は約4,500mである。地形的特徴から数回の大きな崩壊イベントを経て現在のような堆積面形状になったと推定される。現在確認できる堆積物の厚さは平均的には15~30m程度と推定される。天水崩壊による堆積物を被覆するテフラはまだ確認できていない。
3)崩壊堆積物
崩壊堆積物調査から、初期にシルト岩の崩積土を、その後安山岩質火山岩類を主体とした崩積土を生み出したイベントに移行したと考えられる。今のところシルト岩からなる崩壊堆積物は天水崩壊による堆積域に3箇所で確認されており、安山岩質火山岩類を主体とした崩積土の下位層として古土壌を挟んで直接確認された。この堆積物は直径数cm程度の角礫状シルト岩が密にパックされているのが特徴的であり、地震による崩壊堆積物の性状に酷似する。後者の安山岩質火山岩類の堆積物の特徴は、①最大径3mに達する安山岩の角礫を多く含んだ堆積物で堆積時に水を伴ったと思われる堆積構造が見られない、②含まれる礫には、安山岩の他にシルト岩、砂岩、凝灰岩などがあり、クサレ礫を含む、③マトリックスは、概ね凝灰質~砂混じりシルト質で、新鮮部では青みがかった灰色~青緑色がかった灰色、である。
等摩擦係数(H/L)は、野々海崩壊0.18、天水崩壊0.14となり、Ui(1983)の分類ではVolcanic dry avalancheとNonvolcanic dry avalancheの中間的な値を示す。
4)巨大崩壊後背地及び滑落崖周辺の地形的特徴
巨大崩壊後背地、すなわち稜線より信濃川に至る山腹斜面は、久保田ほか(2014)がサギング地形とした斜面であるが、巨大崩壊滑落崖周辺には多くの小崖、谷状に延びる大小の陥没状地形を確認される。多くの小崖は南落ちの変位を示しているのが特徴的である。また、陥没地形の中心軸方向やリニアメントは関田山脈の方向や魚沼層の走行とは斜交し西側ほど大きく開き約45度に達する。
まとめ
関田山脈北側で発生した巨大崩壊は、現在の主稜線を構成する魚沼層分布域で発生したものであり、降水などによる土石流のように水を介在したものではないと推定される。また、稜線南側のサギング地形の形成やこの地域より東側山地に発達する巨大崩壊や山地変形とも関連する山体形成に関わる大きなイベントと考えられる。
参考文献
久保田ほか(2014)新潟・長野県境関田山脈南麓のサギング地形とその地質的要因,地学団体研究会専報,60,143-160.
竹内ほか(2000)松之山温泉地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,76p.
Ui,T.(1983)Volcanic dry avalanche deposits.Jour.Volcanol.Geotherm.Res.,18,135-150.