09:00 〜 09:15
[HCG27-01] 環境問題の現場における科学者とステークホルダーの協働
キーワード:環境問題の現場、科学者、ステークホルダー、フューチャーアース
多発する地球環境問題を背景として、社会のための科学の実現は科学者の喫緊の課題となった。課題解決型プログラムであるフューチャー・アース(FE)ではStakeholdersとの協働によるTransdisciplinarityの実現が重要な達成目標として掲げられている。しかし、多層的なStakeholders、Stakeholder間の利害調整、Decision makerとの関係等、考慮すべき課題は多い。本セッションでは問題の現場における協働の実践例を通して、社会における科学の役割と、課題解決への科学者の関与のあり方について議論する。
問題の解決に貢献することは科学者の重要な任務であるが、解決への道程に対しては異なる考え方がある。ひとつは、望ましい未来を想定し、それに向かうように現在を変えるという考え方である。未来を予測し、好ましくない未来にならないように現在を考えるという言い方もできる。もうひとつは、未来を良くするためには現在を良くする、という考え方である。
前者は理系の科学者の考え方、後者は社会系の科学者の考え方といっても良いかも知れない。この二つの立場の考え方には、世界観、自然観、環境観といった価値観の相違があるように思える。世界は一つと考えるか、あるいは世界は相互作用するたくさんの小さな世界(地域)から成り立っていると考えるか、どちらも正しい認識であるが、環境問題に対するアプローチはだいぶ異なる。
FEでは科学者はStakeholderと協働することを実施のための規範としてあげているが、Stakeholderは階層性を持ち、どのStakeholderと協働するかによっても研究の方向性は異なってくる。国をStakeholderに設定すると、研究の目的は世界に向けて科学の成果を発信し、国威発揚することが目標となり、その成果指標は論文生産数ということになるだろう。これは科学者として自然な態度である。
しかし、問題解決型であるFEにおいては、Stakeholderとして、現場の当事者を考えたい。環境問題は地域における人と自然の関係性の問題であるからである。その基盤には、地域を良くすることが世界を良くすることにつながる、現在を良くすることが、よりよい未来の創成につながるという考え方がある。Transdisciplinarityの実現のためには、問題の解決を共有する枠組みの中で科学者が役割を果たすという姿勢が必要である。その成果は問題の解決であり、問題解決の取り組みの中で科学者の役割は相対化される。FEの推進のためには新しい評価軸が必要になってくる。
問題の現場では科学の知識がステークホルダーの諒解形成に訳に立たないことも多い。例えば、原子力災害において追加被ばく線量が20mSv以下では安全といわれても、バックグランドを超えた線量の被ばくは事故による被ばくであり、リスクに見合う補償があることがステークホルダーが諒解する最低限の条件である。問題の解決の前に、包括的な観点からの問題の理解が必要である。そのために必要な基準は、①共感基準、②理念基準、③合理性基準、である。まずステークホルダーとの間で共感がなければならない。次にどのような社会が望ましいかという理念が共有される必要がある。最後に、科学的合理性に基づく判断を行う必要がある。FEにおいては、③のみでなく、①、②の基準を重視することがTransdisciplinarityの達成に繋がる。
社会学で脳内環境問題という言葉がある。言説として流布している環境問題が、実態と乖離している問題である。問題の解決を目的とするためには、まず現在起きている問題に対峙し、その問題がなぜ起きるのか、考えなければならない。珊瑚礁の島の水没問題を考える時、地球温暖化というハザードから捉えると、地球温暖化の予測、緩和が重要な解決策となる。しかし、現実に生起している問題から解決を考えると、地球温暖化は相対化され、都市化、人口増加、排水、ゴミ処理といった現実の問題が浮かび上がってくる。これらの問題を解決し、現在をよくすることが未来をよくするという考え方がFEには内包されているのではないだろうか。
問題の解決に貢献することは科学者の重要な任務であるが、解決への道程に対しては異なる考え方がある。ひとつは、望ましい未来を想定し、それに向かうように現在を変えるという考え方である。未来を予測し、好ましくない未来にならないように現在を考えるという言い方もできる。もうひとつは、未来を良くするためには現在を良くする、という考え方である。
前者は理系の科学者の考え方、後者は社会系の科学者の考え方といっても良いかも知れない。この二つの立場の考え方には、世界観、自然観、環境観といった価値観の相違があるように思える。世界は一つと考えるか、あるいは世界は相互作用するたくさんの小さな世界(地域)から成り立っていると考えるか、どちらも正しい認識であるが、環境問題に対するアプローチはだいぶ異なる。
FEでは科学者はStakeholderと協働することを実施のための規範としてあげているが、Stakeholderは階層性を持ち、どのStakeholderと協働するかによっても研究の方向性は異なってくる。国をStakeholderに設定すると、研究の目的は世界に向けて科学の成果を発信し、国威発揚することが目標となり、その成果指標は論文生産数ということになるだろう。これは科学者として自然な態度である。
しかし、問題解決型であるFEにおいては、Stakeholderとして、現場の当事者を考えたい。環境問題は地域における人と自然の関係性の問題であるからである。その基盤には、地域を良くすることが世界を良くすることにつながる、現在を良くすることが、よりよい未来の創成につながるという考え方がある。Transdisciplinarityの実現のためには、問題の解決を共有する枠組みの中で科学者が役割を果たすという姿勢が必要である。その成果は問題の解決であり、問題解決の取り組みの中で科学者の役割は相対化される。FEの推進のためには新しい評価軸が必要になってくる。
問題の現場では科学の知識がステークホルダーの諒解形成に訳に立たないことも多い。例えば、原子力災害において追加被ばく線量が20mSv以下では安全といわれても、バックグランドを超えた線量の被ばくは事故による被ばくであり、リスクに見合う補償があることがステークホルダーが諒解する最低限の条件である。問題の解決の前に、包括的な観点からの問題の理解が必要である。そのために必要な基準は、①共感基準、②理念基準、③合理性基準、である。まずステークホルダーとの間で共感がなければならない。次にどのような社会が望ましいかという理念が共有される必要がある。最後に、科学的合理性に基づく判断を行う必要がある。FEにおいては、③のみでなく、①、②の基準を重視することがTransdisciplinarityの達成に繋がる。
社会学で脳内環境問題という言葉がある。言説として流布している環境問題が、実態と乖離している問題である。問題の解決を目的とするためには、まず現在起きている問題に対峙し、その問題がなぜ起きるのか、考えなければならない。珊瑚礁の島の水没問題を考える時、地球温暖化というハザードから捉えると、地球温暖化の予測、緩和が重要な解決策となる。しかし、現実に生起している問題から解決を考えると、地球温暖化は相対化され、都市化、人口増加、排水、ゴミ処理といった現実の問題が浮かび上がってくる。これらの問題を解決し、現在をよくすることが未来をよくするという考え方がFEには内包されているのではないだろうか。