日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG27] 環境問題の現場におけるScientistsとStakeholdersとの協働

2016年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 102 (1F)

コンビーナ:*近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、木本 浩一(摂南大学・外国語学部)、手代木 功基(総合地球環境学研究所)、座長:近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)

09:45 〜 10:00

[HCG27-04] 太平洋・インド洋の環礁国における土地利用と国土の脆弱性

*菅 浩伸1 (1.九州大学大学院比較社会文化研究院)

キーワード:環礁国、土地利用、居住域、海面上昇

太平洋・インド洋には環礁上に成立した低平なサンゴ洲島で国土が成り立つ環礁国がある。これらの国々では温暖化に伴う海面上昇による海岸侵食と,国土の消失・水没が危惧されている。ここでは太平洋・インド洋の環礁国にて,発表者がおこなってきた現地調査から明らかになった災害の実態および洲島の地形と土地利用を基に,温暖化時代の脆弱性と持続可能性を検討する。本発表では特にツバル,キリバス共和国とモルディブ共和国を取り上げる。
ツバルは総面積26km2,人口約1万人(2016年1月)の環礁国であり,地球温暖化に伴う海面上昇の影響が危惧されている国である。国土人口の半数が居住する南緯8.5度度のフナフティ環礁最大の洲島Fongafale島中央部では,外洋側に高度3mを超えるストームリッジが発達する。その背後の低地には発電所など新しい施設が立地する。旧来からの居住地は礁湖側の最も高い場所にあり,高度2mである。ストームリッジ背後の低地あるいは浚渫跡の凹地に隣接する新興住宅地域で大潮高潮時に冠水する。
赤道域に位置するキリバス共和国は総面積730km2,人口約10万3千人(2010年)の環礁国である。約3万4千人が居住する首都南タラワでは,旧来からの居住地では明瞭なストームリッジが形成されており,高度が高い。新興住宅地(学校,町工場,商店混在地域)ではストームリッジが形成されておらず,居住域の高度は低い。首都南タラワの礁湖側沿岸域では,住民による埋め立てが行われている。
インド洋のモルディブ共和国では,2004年インド洋大津波調査の際,北部から南部の43島にて地形断面測量を行うとともに,断面周辺の土地利用を記載して居住域の高度を求めた(Kan et al., 2007)。北部では外洋側にストームリッジが発達し,帯状の植生分布がみられる洲島が多い。一方,中南部では低く平坦な洲島が多く,海面上昇に対して脆弱性が高いと考えられる。多くの分散した島々によって成り立っているモルディブ共和国では,都市部への人口集中が進んでいる。首都のマーレ島には国人口の3割以上の15万4千人が住んでおり,人口密度は7万7千人/km2に達する(2014年9月)。マーレ島のもともとの面積は1 平方キロメートル程度であったが,埋め立てによって面積が約2倍になった。マーレ島では1987年の高潮の後,マーレ島を囲む防波堤が建設された。2004年12月26日に発生したインド洋大津波時には,同島の約3分の2の地域で浸水したものの,防波堤によって構造物の破壊など壊滅的被害は免れた。今後の海面上昇による海岸侵食に対しても防波堤の建設は効果的と考えられている。
低平なサンゴ洲島は温暖化に伴う海面上昇によって水没すると一般によくいわれる。しかし現実には,上昇した海面のもとで波浪の影響が増大し,海岸侵食によって島が消失することが懸念される。海岸侵食に備えるため,防波堤などのインフラ整備が進んだ島は,安全な島として住民が移住を希望する島となり,特定の洲島での都市化が進む。環礁国の脆弱性は,海面上昇対策だけでなく,住民の急速な移住によって引き起こされる人口偏在化の側面からも検討されるべきであろう。